研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
26105502
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
福田 善之 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (40272520)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 2重ベータ崩壊 / ニュートリノ質量 / ジルコニウム / 液体シンチレータ |
研究実績の概要 |
昨年度にβケトエステル錯体であるジルコニウム・アセト酢酸イソプロピル(Zr(iprac)4)とジルコニウム・アセト酢酸エチル(Zr(etac)4)に加え、ジルコニウム・マロン酸ジエチル(Zr(deml)4)を合成し、各々の吸収スペクトルを詳細に観測したところ、βケトエステル錯体は278nmに吸収ピークが移動し、Zr(deml)4は260nmまで移動することを確認した。配位子ほど顕著に短波長側へ移動しなかったが、吸収スペクトルの幅が狭い形状であり、溶媒であるアニソールの発光エネルギーをPPOに伝達させることが可能であった。また、βケトエステル錯体のアニソールに対する溶解度が30wt.%以上であり、Zrの溶解量が70g/Lを超えることがわかった。ただし、錯体の濃度を10wt.%まで増やすと光量は標準シンチレータの15%となり、エネルギー分解能は7%@1.03MeVから35%@103MeVまで悪化した。 このクエンチングの原因はβケトエステル錯体とPPOの吸収スペクトルが重なっているためであり、液体シンチレータの発光量が錯体とPPOの濃度比に比例していると考え、この仮定を元にデータをフィットすると、見事に一致する結果を得た。これから、PPOの濃度を増やせば液体シンチレータの発光量とエネルギー分解能を改善させることができると着想したのである。実際、PPOの濃度を0.5wt.%から4.8wt%まで増加させると、Zr(iprac)4を10wt.%の濃度溶解させた液体シンチレータであっても、発光量が標準シンチレータの48.7±7.1%まで回復し、エネルギー分解能も13.0±0.2%@1.03MeVを得た。これは40%の光電子増倍管の集光率を想定しているZICOS実験では4.1±0.6%@3.35MeVになることが期待され、本研究の目標のエネルギー分解能3.5%@3.35MeVを達成できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位子から予想された吸収スペクトルに対して、合成したジルコニウム・βケトエステル錯体およびジルコニウム・マロン酸ジエチルの吸収スペクトルのピーク波長は短波長側に移動しなかったが、吸収スペクトルの幅がジケトン錯体に比べて狭い形状となり、溶媒であるアニソールの発光エネルギーをPPOに伝達させることが可能であることがわかった。そこで、PPOとβケトエステル錯体との濃度比により液体シンチレータの発光量が改善できることを発想し、実際に従来の10倍程度のPPOを溶解させるとβジケトン錯体が10wt.%を含有した液体シンチレータでもエネルギー分解能が1/3以上に改善できることを突き止め、ZICOS実験における光電子増倍管の集光率で補正した場合、エネルギー分解能は目標値を達成することができたためである。更に、ZICOS実験における感度を評価した結果、半径1.5mのバルーンを用いた場合、KamLAND-Zenと同程度のバックグラウンド環境を実現すると、gA=1.25とおgpp=1.11の核行列パラメーターの場合、半減期の下限値として1.1×10の25乗年、ニュートリノの有効質量の上限値として0.2-0.3eVの領域を観測できることがわかり、従来の最大値を得ていたNEMO-3実験より一桁以上の感度を有する結果を得たためである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、光電子増倍管の集光率を40%に設定した状況でエネルギー分解能を測定するとともに、合成した錯体やPPO、アニソール中の放射性バックグラウンド量を高感度ゲルマニウムや大型CsI検出器を用いて計測し、それらを低減させるための指標を得る。また、400nm程度のシンチレーション光の透過率を上げるために、アニソールをAl2O3により純化し、15m以上の透過長を得られることを実証する。更に、実際の実験では96-Zrの含有量が50%以上を要求するため、56.5%に濃縮されたZrO2を10g購入し、錯体の原料であるZrCl4の合成を東京化成工業に委託し、5g程度のジルコニウムβケトエステル錯体を合成し、液体シンチレータの性能評価ち放射性バックグラウンド量を計測する計画である。また、これまでのβケトエステル錯体の合成法を元に、将来的に0.2-0.3eVのニュートリノの絶対質量を探索するZICOS実験に必要な13トンの錯体の合成手順等について東京化成工業と検討する計画である。
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