昨年度の開発で成功したテトラキス(アセト酢酸イソプロピル)ジルコニウム(Zr(iprac)4)を10wt.%溶解させた液体シンチレータに対し、放射線元素の含有量を評価した。鉛シールド内にCsI検出器を設置し、液体シンチレータ内部のU/Th系列から放射されるガンマ線を観測した結果、Tl-208(2.615MeV)及びBi-214(2.204MeV/1.765MeV)のピークが観測された。しかし、液体シンチレータがない場合のスペクトルと差がなかったため、各々の上限値として2.7×10の-22乗g/g及び4.9×10の-20乗g/gが得られた。従って、液体シンチレータ中のU/Thの上限値は10の-7乗g/gと推定でき、明らかな量の放射性元素は存在しないことがわかった。また、液体シンチレータは1年以上経過後も沈殿物等は生じず、エネルギー分解能や光量の低下も確認されなかった。 一方、KamLAND-Zenの解析結果より、Zr-96の2重ベータ崩壊の信号領域に残存するバックグラウンド事象として、バルーンフィルム内のTl-208のベータ崩壊事象と、それに伴う2.6MeVのガンマ線であり、本研究でもそれらがバックグラウンドになると考えられる。これらを除去するために、新たにチェレンコフ光による事象再構成を着想した。 アニソールの屈折率は1.518のため、0.7MeV以上の電子はチェレンコフ光を放射する。実際にチェレンコフ光の光量を観測した結果、液体シンチレータの2%程度であり、計算結果と一致した。更に、EGS5によるシミュレーションの結果、電子の多重散乱が発生してもチェレンコフ光の放射角度分布は42度付近にピークが観測され、その情報から事象の発生位置の再構成を試みたところ約6cmの位置分解能の性能が得られた。ZICOS 実験では時間情報も利用できるため位置分解能は更に向上し、Tl-208のベータ線とガンマ線の発生位置を個別に特定できることが期待されるため、KamLAND-Zenのバックグラウンド観測量の20分の1程度まで除去できる可能性を示すことができた。
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