研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
26105503
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
太田 俊彦 埼玉大学, 理工学研究科, 研究支援者 (20649652)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 素粒子実験 / ニュートリノ / 加速器 / 宇宙物理 |
研究実績の概要 |
主要な研究テーマであるところの無ニュートリノ二重崩壊過程に寄与する有効相互作用と輻射ニュートリノ質量模型の関係については、質量次元9の有効相互作用に対し網羅的ボトムアップ・アプローチを適用することで系統的に調べ上げた。その成果は論文としてまとめられ、Journal of high energy physics誌に掲載が決定している。また本研究の中で、質量次元7でニュートリノを外線に含む有効相互作用が無ニュートリノ二重崩壊過程に長距離力としての寄与を与えるため、質量次元9の有効相互作用の結果に含めて扱えないことが分かった。本年度は、その点について特に注目し、無ニュートリノ二重崩壊過程に関連する新物理現象・模型を網羅的かつ系統的に調べ上げるという研究目標を完成させたい。
軽い暗黒物質を含む最小超対称模型のLHC実験での検証可能性を議論し、その結果はJournal of high energy physics誌に掲載された。我々は、Zボソン、Higgsボソンが媒介する暗黒物質の対消滅過程が初期宇宙で主要な寄与を与える場合に特に着目し、LHCによる重い中性ゲージ・フェルミオンの崩壊過程の探索が与える制限を数値シミュレーションにより導出した。
IceCube実験において観測された高エネルギー宇宙ニュートリノのスペクトルの欠損を説明し、同時にミューオンの異常磁気能率の実験値からの理論値のずれをも説明できる理論模型を提案した。結果はPhysical Review D誌に掲載され、国際会議Neutrino 2014およびNuPhys 2014に於いてポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画では、次世代実験の結果をインプットとし宇宙を記述する新たなニュートリノ有効理論を構築することを大目標に、特にレプトン数・レプトンフレーバーの破れた過程の探索実験に注目し、それらの実験の結果が素粒子理論模型に与える示唆を網羅的ボトムアップ・アプローチを用いて系統的に議論することを目指している。平成26年度は、代表的なレプトン数の破れた過程である無ニュートリノ二重崩壊過程に関連する新物理に網羅的ボトムアップ・アプローチを適用し、その新物理がTeVスケールの輻射ニュートリノ質量模型に与える示唆を調べ上げ、その成果を論文としてJournal of high energy physics誌に掲載することができたため、当初計画の通りに研究を進め成果を上げていると言える。その研究の中で、無ニュートリノ二重崩壊過程に別の影響を与え得る新物理の分類を逃していることが明らかになった。今年度はこの「別の影響を与え得る新物理」の起源を調べあげ、無ニュートリノ二重崩壊過程に関する網羅的・系統的研究を完成させたい。
また当初の研究計画には無かったが、関連する研究分野である高エネルギー宇宙ニュートリノやミューオン異常磁気能率、超対称性模型と暗黒物質の関連についても論文を物することができ、国際会議・国内会議で発表を行った。したがって当初予定していた以上の成果が得られていると言える。これらの成果は、本研究の新学術領域「ニュートリノフロンティア」の中での意見交換・相互作用に依るところが非常に大きい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も、本研究の本来の目標であるレプトン数・フレイバーの破れた過程を手がかりとした理論模型の探索を引き続き行なっていきたい。具体的には、無ニュートリノ二重崩壊過程に寄与する新物理の内、昨年度出版した論文に含まれない場合を調べ尽くし、無ニュートリノ二重崩壊過程に関する理論模型を網羅し系統的に分類したい。これについては現在既に着手しており、年度中に完成させることができると信じている。また無ニュートリノ二重崩壊過程だけでなく、ニュートリノ質量および混合角測定に影響を与え得る低エネルギー新物理に今一度着目し、その高エネルギー物理への示唆を系統的に調べ上げることにより、近い将来もたらされると期待される高精度な実験結果に備えたい。
昨年度、新学術領域「ニュートリノフロンティア」の研究会での発表や議論を通して高エネルギー宇宙ニュートリノについて興味を惹かれ、その分野でひとつの論文を物することができた。今年度は、この昨年度の成果を踏まえ更に深めていきたい。具体的には、昨年度の研究の中では簡単化の為に無視されていた効果(例えば、宇宙ニュートリノの分布の効果)や取り入れられていなかった実験からの制限(太陽ニュートリノからの制限等)を考慮に入れ、より精密で現実的な数値計算を行うことを予定している。更に、高エネルギー宇宙ニュートリノのスペクトラムに影響を与える理論模型の内、我々が想定している模型を検証できる実験を考案し、提案していきたい。
以上の研究成果を論文としてまとめ、また昨年度同様、積極的に国際会議・国内会議で発表していくつもりである。
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