研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
26105513
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
飯田 崇史 大阪大学, 核物理研究センター, 特任助教(常勤) (40722905)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / ニュートリノ / 2重ベータ崩壊 |
研究実績の概要 |
本研究では、カルシウム48同位体を用いた2重ベータ崩壊探索を目的としたCANDLES実験において、現在問題となっている高エネルギー領域のバックグラウンドの正体を明らかにする。カルシウム48はQ値が4.3MeVと全2重ベータ崩壊核の中で最も高く、バックグラウンドに強い核種であると言える。CANDLESでは300kgのCaF2シンチレータを用いて低バックグラウンド環境下での2重ベータ崩壊探索を目指している。 これまでのデータ解析から5MeV以上の領域までバックグラウンドが存在していることがわかっており、これはウランやトリウム系列の自然放射性不純物では説明がつかず、長い間謎となっていた。一つの候補として実験装置の周囲にある岩盤やステンレスが中性子を捕獲した際にでるガンマ線が、このバックグラウンドを作っている可能性が考えられ、本研究においては実際に検出器に中性子線源を照射してその詳細を調べることが一つ目の目的である。 またSi-28の原子核は中性子を吸って3.5MeVと5.0MeVのガンマ線を出すが、これはカルシウム48の2重ベータ崩壊のQ値(4.3MeV)に近い。Siを含んだポリエチレンブロックに中性子線源を設置することで、このガンマ線を作り出し、CANDLESにおけるエネルギー較正の不定性を減らすことが本研究の2つ目の目的となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の今年は、まずCANDLES実験において実際に中性子線源としてCf-252を用いたデータ取得を行った。中性子線源データのスペクトルは、これまでに得られていたバックグラウンドスペクトルを完全に再現し、5MeV以上の領域のバックグラウンドが初めて明らかになった。またそのスペクトルはシミュレーションでも良く再現され、詳細な解析の結果、実験室岩盤からのγ線と、ステンレスタンクからのγ線の比が、7:3で岩盤が支配的であることを明らかにした。これにより外部からのγ線シールドが必要であることを示し、実験グループは来年の鉛シールド導入に向けて動き始めている。導入されればBGが一桁以上削減できる。 またSi-28の原子核を含むポリエチレンブロックを約30kg作成し、中心に中性子線源を配置しデータ取得を行った。それにより、Si-28が中性子を吸い込んだ際に出す3.5 / 5.0 MeVのγ線をCANDLES検出器で検出することに成功した。詳細な解析は現在遂行中であるが、これまで1.84MeVのγ線のみでエネルギー較正していた較正点を3つに増やすことによってエネルギースケールの不定性を抑えることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
バックグラウンドに関しては、その起源が完全に明らかとなったため、今年度はバックグラウンドをどう防ぐかに焦点を当てる。メインのバックグラウンドが周囲の岩盤からのガンマ線であるため、タンク周囲に鉛シールドを配置することでこれを防ぐ。またステンレスタンクが中性子を吸って出すガンマ線も防ぐために、ホウ素入りの中性子シールドをステンレスタンク内外に配置する。この二つの改造によって、中性子捕獲ガンマ線のバックグラウンド量はこれまでの80分の1になる試算である。すでに本研究の結果を基にしたシミュレーションスタディによって、シールドデザインは完成しており、今年度はシールドの構築を終わらせる予定である。 またSi-28を含むポリエチレンブロックを用いてデータ取得を行ったが、統計数が少ないことによる不定性が大きいことが判明した。この対策として、ブロックの周囲をグラファイトの中性子反射材で囲うことで、中性子が外に逃げるのを防ぐ予定である。これによって数倍の統計数が期待され、目標としていた0.5%以内でのエネルギー較正を達成する。
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