公募研究
本研究の目的は、3世代6種類の超新星ニュートリノを利用して、バックグラウンドの電子との相互作用が引き起こすMSWフレーバー振動効果と、ν-ν散乱が引き起こす集団的フレーバー振動効果の影響を受けて生成される元素群(ニュートリノ起源核種)を理論的に研究し、理論予測を太陽系組成と比較検討することから、大質量星内部のニュートリノ伝搬の詳細を明らかにしフレーバー振動機構を解明することである。平成26年度は、この目的のために必要なニュートリノ・原子核反応断面積の精緻なる量子力学計算を、原子核の殻模型と乱雑位相近似模型を用いて実行し、またr過程元素の最も強く影響する原子核質量、中性子捕獲反応率、β崩壊寿命等の原子核データを系統的に揃えることに努めた。また、極端にエントロピーが低いが高い中性子過剰性を示す爆発的な天体現象では核分裂サイクルが重要な役割を果たすと考えられるので、非対称核分裂片の質量分布を正しく取り入れた理論モデルを構築し、新たに元素合成反応ネットワークコードを開発した。フレーバー集団振動現象はニュートリノ光球から数百kmのν-ν散乱が引き起こすと考えられるので、r過程はこの振動効果に最も敏感なプローブになり得る。r過程の起源天体を解明するために、ニュートリノ加熱型、磁気回転流体ジェット、コプラサー等の重力崩壊型超新星爆発だけでなく、中性子星連星系の合体モデルも用いて、それぞれの天体現象からr過程元素への寄与を計算し、銀河系の初期世代星(金属欠乏星)と太陽系に検出された重元素組成比と比較して、銀河の化学的・動力学的進化という観点からr過程元素のユニバーサリティーの起源を研究した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画以上に進展した点は、r過程計算に必要な中性子捕獲反応率とβ崩壊率だけでなく、非対称核分裂片の質量分布を取り入れた核分裂(自発的核分裂、β崩壊および中性子捕獲反応により誘起される核分裂)モードを考慮した元素合成反応ネットワークコードを新たに開発した事である。更にr過程の起源天体候補である殆ど全ての爆発天体現象、即ちニュートリノ加熱型、磁気回転流体ジェット、コプラサーという重力崩壊型超新星爆発、および中性子星連星系合体という四天体現象の理論モデルに、非対称核分裂を取り入れた元素合成反応ネットワークコードを適用してr過程計算を行った事も、当初の予想を超えた進展である。これにより、初期世代の金属欠乏星および太陽系組成と理論予測との比較から、銀河の化学的・動力学的進化という観点からr過程に関する各天体の寄与に定量的な制約を導く方法論を構築する目処がついた。しかし、初期質量・初期金属量・爆発エネルギーが異なるさまざまな超新星爆発モデルを構築する研究に十分な時間と労力が避けなかった点は、課題として残された。来年度の研究で挽回を目指したい。以上により(2)おおむね順調に進展していると自己評価する。
引き続き、超新星爆発におけるニュートリノ元素合成過程の研究によって、大質量星内部のニュートリノ伝搬の詳細を明らかにするとともに、フレーバー振動機構を解明する研究を重点的に推進する。平成26年度の研究によって、重力崩壊型超新星爆発(ニュートリノ加熱型、磁気回転流体ジェット型、コプラサー)だけでなく中性子星連星系合体も研究対象にして、銀河の化学的・動力学的進化の観点からニュートリノ元素合成過程に観測的な制約を付けることができるという新たな研究方向をも見いだすことができた。上記の四つの候補天体現象のどれか単一の爆発天体現象でr過程が説明できるのか、あるいは複数の天体からの寄与が必要であるのかを重点的に研究することは、世界的に見てもユニークな研究手法である。ニュートリノ光球付近のν-ν散乱が引き起こすと考えられる集団的なフレーバー振動現象は、r過程が成功するために必要不可欠な中性子過剰性の最も敏感なプローブになり得る。超新星は、初期銀河から太陽系に至るまで高い頻度でr過程元素合成に寄与すると考えられる。一方、中性子星連星系合体はあまりに重力波放出に時間がかかりすぎるため合体までに最低1億年ないし宇宙年齢を越える時間がかかるとされ、初期銀河ハローのr過程に寄与し難いが、一回の合体で多量の重いr元素量が作られるため、発生頻度は少なくても太陽系組成には十分寄与すると考えられる。今後の研究では、銀河の化学的・動力学的進化の考察も取り入れて、当初の目的を追究する。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 9件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 8件) 図書 (1件)
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