研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
26105705
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
渕辺 耕平 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (10348493)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ジフルオロメチル化 / ジフルオロカルベン / プロトンスポンジ / 硫黄 / フッ素 / 選択性 / 医薬 / 農薬 |
研究実績の概要 |
ジフルオロカルベン(:CF2)は、有機フッ素化合物合成のための有望な一炭素ユニットである。ジフルオロカルベンを有効活用するには、カルベン同士の二量化を抑制し、かつ過剰反応を防ぐために、基質との反応速度に応じてその生成速度を制御する必要がある。しかしこれまで、そのような手法がなかった。筆者は最近2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル(TFDA)を有機求核剤(有機分子触媒)で活性化できることを見いだした。有機分子触媒は、その構造を合成化学的に変更し触媒活性を調節できるため、TFDAからのジフルオロカルベン発生制御に適している。 今年度は、TFDA活性化のための有機分子触媒として1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ)が利用可能であることを新たに見いだした。またこれを利用して、硫黄上のジフルオロメチル化反応を実現した。すなわち、アミドから容易に調製できるチオアミドを基質として選択し、触媒量のプロトンスポンジ存在下、TFDAを作用させた。系中で発生したジフルオロカルベンによりチオアミドの硫黄上が位置選択的にジフルオロメチル化され、対応するジフルオロメチルスルフィドが良好な収率で得られた。 ジフルオロメチルスルフィドは医農薬にも見られる重要な構造であるが、これまでその構築には強塩基性条件や高温条件を要した。本研究課題により、より温和で汎用性の高いジフルオロメチルスルフィド合成法が実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、(1)ジフルオロカルベン(:CF2)の発生制御を有機分子触媒で達成し、(2)これを様々な有機フッ素化合物合成に活用する道を拓くことを最終目標としている。平成26年度は「研究実績の概要」で述べたように、プロトンスポンジ(有機分子触媒)による硫黄上のジフルオロメチル化反応を開発した(2)。硫黄上のジフルオロメチル化はすでにいくつかの研究グループにより報告されている反応ではあるが、その条件は過酷であり、筆者らの方法のようにほぼ中性条件下、50℃程度の温度で進行した例はほとんどなかった。これは有機分子触媒の活用によって初めて得られた成果であり、有機分子触媒の合成化学的な有効性を実証したものである。よって、その達成度は十分である。 その一方平成26年度は、ジフルオロカルベンの発生制御(1)を定量的に取り扱うまでには至らなかった。これは、上述の硫黄上のジフルオロメチル化反応(2)が順調に進行したため労力を集中し、想定よりも多くの時間を割いたためである。これにより生じる予定の変更は深刻ではなく、本研究は最終目標に向けておおむね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
最終目標の一つである、ジフルオロカルベン(:CF2)の発生制御の定量的な取り扱いに取り組む。本研究経費を利用して出席した学会等での議論を通して、ジフルオロカルベンおよびこれから生じるペルフルオロイソブテン (CF3)2C=CF2 は、アルコールとの付加体の形で捕捉可能との情報を得た。これにより、生成したジフルオロカルベンを定量し、その発生速度を数値化することが可能になると考えられる。これを足がかりに、有機分子触媒の構造-活性相関を明らかとし、最終的には、各々の基質に対する最適触媒の予測や、新触媒の設計・合成にも役立てたい。
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