ルテニウム-ビピリジン錯体([Ru(bpy)3]2+)は、光触媒・増感剤や太陽電池(Grätzelセル)の鍵化合物として40年以上に渡って研究されてきた。さらに最近5年は、[Ru(bpy)3]2+や[Ir(bpy)3]2+が酸化と還元、両方の反応を1つの系で実現できる利点を活かし、これらを用いた可視光駆動型フォトレドックス触媒の有機合成化学への応用が、リサーチフロントとして脚光を浴びている。本申請者らはつい最近、[Ru(bpy)3]2+と同様のメカニズム・機能(酸化還元能力)をC、H、Oだけから成る共役系分子素子(TOTF)で実現できることを発見した。本研究では、この新しいタイプの有機光触媒を用いた有機反応の開発と力量ある合成化学への応用を推進している。TOTFは、有機合成反応に応用することを考えると、現状では酸化力が十分ではない。そこで置換基を導入して0.2 Vの拡張に成功した。 また、上記は三重項の励起活性種の反応であるが、一重項の反応も検討した。光レドックス増感反応は、増感剤(ドナー1)からアクセプターへの電子移動により生成するラジカルカチオンが、基質(ドナー2)へと移り、生成するドナー2のラジカルカチオンとアクセプターのラジカルアニオンから発生する活性種の反応と説明することができる。今回、アクセプターのラジカルアニオンどうしがカップリングするという、光誘起電子移動反応ではほとんど報告例のない反応を見出した。(電極反応では、電極表面上に活性種が局在化しているので、いくつか反応が知られている。)種々の反応条件を検討したところ、ダイマーラジカルアニオンを経由している可能性が示唆された。
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