研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
26105728
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴富 一孝 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00378259)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 不斉フッ素化反応 / キラル一級アミン / 分岐型アルデヒド / 有機分子触媒 / 第三級アルコール |
研究実績の概要 |
有機分子触媒を用いた分子変換反応は触媒の環境毒性が低いこと,希少金属を用いる必要が無いことなどから環境調和性の高い化学変換プロセスとして大きく注目されている。プロリン誘導体に代表されるキラルアミンを触媒としたアルデヒドのα位置換反応は様々な医薬品および生物活性物質の合成に応用されている極めて有用な不斉反応である。しかしながら本反応はα―1置換アルデヒドの変換反応には有効であるものの,α―2置換アルデヒド(分岐型アルデヒド)を反応基質とした場合の成功例は少ない。そこでこの制限を打破する高機能なキラルアミン触媒を新たに開発できれば,不斉アミン触媒反応の応用範囲を大きく拡大できると考え、新たなキラルアミン触媒の開発を行った。具体的には軸不斉を持つ新たなαアミノエステルを設計合成し、これを触媒とした分岐型アルデヒドの不斉フッ素化反応に成功した。本反応は最高95%eeで目的のフッ素化体を与える。有機フッ素化合物は医薬品の開発において重要な化合物群であるが、これまで同反応において90%eeを超えるエナンチオ選択性を示す触媒は開発されていなかった。 さらに得られた第三級フッ素化物を塩基性条件下で処理することで、炭素フッ素結合の切断が起こり、αーヒドロキシアセタールが得られることを見いだした。本反応は光学純度を損なわずに進行することから、高い光学純度でヒドロキシアセタールを合成できる。本成果は、強固なことで知られる炭素ーフッ素結合の断裂を経由する反応であることから、学術的に興味深いだけでなく、得られる第三級アルコールは生物活性物質の部分構造として重要であることから医薬品開発への応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、分岐型アルデヒドの高エナンチオ選択的フッ素化反応に成功した。化学収率、エナンチオ選択性共にこれまで報告されているものの中で最高の値を示した。 さらに得られたフッ素化物の合成的な有用性を検討する中で、炭素-フッ素結合の切断を伴うα-ヒドロキシアセタールの合成という極めて興味深い分子変換反応を発見できた。すなわち、当初の計画にあった含フッ素キラル有機分子の不斉合成を達成できただけでなく、得られたフッ素化合物を中間体としたキラル第三級アルコールの合成にも合わせて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回開発したキラルアミン触媒を利用して様々な分岐型アルデヒドの不斉変換反応を試みる。具体的には、トリフルオロメチル化反応、ヒドロキシ化反応、チオエーテル化反応等を検討する。いずれの反応においても得られる生成物はキラル四置換炭素を有しており、医薬品化学において極めて重要な部分構造を構築できる。 不斉反応の化学収率、エナンチオ選択性が十分でない場合、触媒構造のチューニングを行う。本触媒は、反応活性中心近傍の構造を比較的変化させ易い設計となっているため、目的反応に応じた適切な触媒構造を探索する。 また、計算化学を用いて反応の遷移状態を解明することで、不斉制御に影響を与える部分構造を見いだし、この知見を元にした合理的な最適触媒の設計にも挑戦する。
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