中性塩であるテトラアルキルアンモニウム塩は、相間移動触媒として活用され、数多くの実用的有機合成反応を実現してきた。最近では、キラルアンモニウム塩を不斉触媒として用いた反応開発が活発に行われている。テトラアルキルアンモニウム塩の構造は、窒素上に正電荷が局在化した構造で示されるのが一般的である。しかし実際の構造は、正電荷がα-水素上に非局在化し、このα-水素がアニオン性部位と水素結合を形成した構造をとることが、結晶構造や計算結果から明らかにされている。本研究では、テトラアルキルアンモニウム塩の新たな可能性として、α-水素の特性を活用した水素結合供与型触媒としての利用に着目した。 水素結合供与型触媒としての側面を引き出すための分子デザインとして、六員間構造を有するピペリジンを母骨格とし、α-水素の酸性度を高める目的でエステル部位を導入したテトラアルキルアンモニウム塩触媒を設計・合成した。合成した触媒のX線結晶構造解析の結果、α-水素がカウンターアニオンと水素結合を形成していることが明らかになった。テトラアルキルアンモニウム塩触媒の水素結合供与型触媒としての能力を確かめるため、イソキノリン誘導体のマンニッヒ型反応に適用した。その結果、触媒を添加することで反応が促進されることが確認できた。一方、エステル部位を持たない化合物や第三級アミンを触媒とした場合、反応の加速はほとんど見られない。これらの結果は、今回設計したテトラアルキルアンモニウム塩触媒において、第四級アンモニウム塩およびエステル部位の双方が触媒活性の本質であることを示している。さらに、触媒のカウンターアニオンを非配位性のアニオへと置き換えることで、触媒活性が向上した。
|