研究実績の概要 |
我々が独自に開発したトリスイミダゾリン触媒はカルボン酸と水素結合を介して複合体を形成する分子認識能を有する。本年度は、(1)ハロラクトン化反応、(2)他の反応基質での反応、(3)酸性化合物との相互作用に関する研究と応用について検討した。 (1)昨年度にアレンカルボン酸の不斉ヨードラクトン化反応を開発した。本反応系ではアレンからπ‐アリルカチオン中間体の形成を経て反応が進行すると考えている。π‐アリルカチオンを経る同様の反応は、種々の求電子剤(F+, CF3+など)を用いても進行すると期待される。そこで、本年度はフルオロラクトン化について検討した。現在までに、満足のいくエナンチオ選択性は得られていないが、Selectfluorを用いた際に不斉誘起されることが分かった。今後、反応条件を精査するとともに、他の求電子剤を用いる反応への展開を図る予定である。 (2)本新学術領域の班員である大阪大学産業科学研究所・滝澤忍先生との共同研究で、ケチミンの不斉酸化による光学活性オキサジリジン合成法を開発した。本法は、トリスイミダゾリン触媒の過カルボン酸との相互作用に基づく反応である。 (3)トリスイミダゾリンとカルボン酸からなる塩を不斉有機触媒として利用できないか検討した。その結果、ハロゲン化剤による不斉セミピナコール型転位反応に本触媒系が適用できることを見出した。カルボン酸非存在下やリン酸など他のブレンステッド酸を用いると選択性は低下することから、カルボン酸の重要性が支持された。現時点での選択性は最高で50%eeと中程度であるが、得られた結果はトリスイミダゾリン触媒を利用した新たな触媒系の創出のための重要な知見と考えている。
|