研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
26105738
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松原 亮介 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90401223)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光触媒 / 有機分子触媒 / 炭素ラジカル |
研究実績の概要 |
ラジカル分子は高い反応性を示すため、豊富な反応形態がこれまでに報告されている。その中でも炭素フリーラジカルは、有機合成において最も重要な炭素原子上での変換反応を提供するため合成化学上有用な化学種であり、国内外問わずその生成法や反応性に関して多くの研究がなされている。一般的なアルキルラジカル生成法は、ハロアルカンまたはキサンテートにスズラジカルを作用させる方法である。また、電子不足芳香族エステルに光を作用させる方法も知られている。いずれの場合も、アルコールから誘導される活性化体を基質として用いるため原子効率の観点から課題を残しており、有害なスズ試薬を当量以上用いる点も改善するべき大きな問題である。そこで我々は、光エネルギーを有効に利用して、この課題を解決できないかと考え、そのために必要な有機分子触媒の開発を行っている。我々はアルコールを系中で触媒的に活性化することができれば一段階でのアルキルラジカル生成が可能になると考えた。そこで、異なる種類の触媒三者、すなわち安息香酸類縁体、エステル化触媒、光触媒、を同時に用いる検討を行っている。 本年度、安息香酸は一当量用いるものの、触媒量のエステル化触媒とカルバゾールを用いてワンポットでのアルコール還元反応を行うことができた。しかしながら、一段階での触媒的アルコール還元反応は、一当量の安息香酸を用いても、13%の収率にとどまった。 この反応をより効率化するためには、三者の触媒のうち少なくとも二者を同一分子内に組み込むことで、各触媒反応段階において活性化体が少量しか系中に存在しないという必然的な欠点を補う必要があると考えた。そこで、安息香酸類縁体と光触媒を一体化した化合物を設計し合成を行った。その結果、この触媒を用いると反応速度が増加することが分かった。 現在はこの分子の物理的性質や光学的性質を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでに新たな有機分子触媒を設計、合成し、その応用まで行っている。当初目標としていたカルバゾール、安息香酸の一体型分子を数種類合成した。その分子の、X線結晶構造解析、過渡吸収、吸光スペクトルなどを測定し、単独のカルバゾールにはない性質を発見することができた。 触媒の光学的性質、物理的性質を調べるためには、他研究室にしかない分析機器を使用する必要があり、その点が研究を進めるうえでの律速となる時がある。しかし、共同研究者と密なディスカッションを常に行っており、新反応を開発する、既存の触媒と異なり活性種の寿命の長い触媒を創製するなど、当初の計画以上に研究は進展していると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ順調に研究が進行している。現在、設計した触媒分子のうち50%ほどの合成はすでに完了している。残りの50%の分子を速やかに合成する予定である。また、合成したすべての触媒分子に対して、吸光スペクトル、蛍光スペクトル、過渡吸収、サイクリックボルタんメトリー測定を行い、性質を明らかにする予定である。 触媒分子の応用としては、これまでに困難とされていた低い還元電位を持つ化合物(すなわち還元されにくい分子)の還元反応に挑戦する予定である。たとえば、臭化アルキルや臭化アリールは光化学的に還元されにくい化合物であるため、モデル基質として検討を行っていく予定である。その際、得られた情報は触媒設計にフィードバックし、電子状態や立体的因子を種々変化させ、触媒分子の構造の最適化を図る予定である。
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