1.カチオン性キラルホウ酸エステル触媒の精密設計 我々はこれまでに,配位子のルイス塩基性部位と金属カチオンとの相互作用(n-カチオン相互作用)を鍵とする分子設計により,優れた基質一般性を示すキラル金属ルイス酸触媒の開発に成功している。この研究を基に,これまであまり研究が進んでいないカチオン性ルイス酸性有機分子触媒の精密設計を行った。分子内のルイス塩基性部位による相互作用によってカチオン性をもたせつつ安定性を確保する触媒設計である。N-アルキルアミノアルコールとホウ酸トリメチルからカチオンホウ酸エステル触媒を調製し,trans-シンナムアルデヒドとシクロペンタジエンのDiels-Alder反応においてその触媒活性を検討した。その結果,収率は低いものの,中程度のエナンチオ選択性でDiels-Alder付加体得ることができた。
2.亜リン酸エステル-ウレア協働作用型触媒によるエナンチオ選択的ブロモ環化反応の開発 キラルな亜リン酸エステル-ウレア協働作用型触媒の精密設計に基づき,2-ゲラニルフェノール誘導体のエナンチオ選択的ブロモ環化反応の開発を行った。触媒構造や反応条件を精査した結果,良好なエナンチオ選択性で,対応するブロモ環化生成物を得ることができた。特筆すべきは,2つの環を形成したAB環生成物よりも1つの環のみが形成されたA環生成物の方がエナンチオ選択性が高かったことである。A環生成物が生成する際の遷移状態において,基質のヒドロキシ基と触媒のウレア基とが水素結合を形成することにより,遷移状態の立体配座が適切に制御されたものと考えられる。
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