加水分解反応、特にカルボン酸エステルの加水分解反応は非常に基本的な反応である。生体触媒によるエステルの不斉加水分解は実用化例も多いが、一般的に酵素はその安定性が低く、また、単位重量当たりの活性も低いといった問題がある。我々はこれまでに、シンコナアルカロイド由来不斉四級アンモニウム塩を用いたエステル類の不斉加水分解反応を進めてきた。これまでに、エノールエステルおよびジエニルエステルの不斉加水分解反応を行ってきた。最高で95% eeを達成している。この反応は加水分解後にエノラートが生成し、その不斉プロトン化として反応が進行するため、エノラートを経由する可能性のないラセミ基質に対する反応を行った。その結果、アミノ酸エステル類で最高91% eeで反応が進行することがわかった。反応は基質のラセミ化を伴う動的速度論分割として進行する。これまでのアミノ酸誘導体基質では、窒素上の置換基をベンゾイル基やピバロイル基として検討してきた。保護基として機能するようなBoc基やFmoc基では高い選択性が得られない問題があった。最近、フェニルグリシンの誘導体であればN-Boc保護基質の不斉加水分解反応で、75% eeと比較的高い選択性が発現することがわかってきた。現在、さらなる最適化を進めている。フェニルグリシンは非天然型のアミノ酸であり、また不斉アルキル化や不斉水素化で合成するのが難しく、価値があると考えている。
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