近年、油脂を加メタノール分解して得られる長鎖脂肪酸メチルエステルのバイオディーゼルとしての需要が世界規模で高まっている。その結果、油脂やグリセリンの需給バランスが崩れており、この問題の解決は国家レベルの重要な課題となっている。一方、ポリエチレンの再利用や再資源化も重要な課題である。ポリエチレンは直鎖、分岐鎖状に分類されるが、いずれも極めて長鎖のアルカンである。これを適当な長さで酸化的に切断できれば長鎖脂肪酸となるので、廃ポリエチレンからバイオディーゼル原料を生み出せる。本課題では、グリセリン問題、廃ポリエチレン問題という2つの国家的課題を同時に解決できる反応への応用を見据え、その基礎となる「有機分子触媒を用いるアルカンの高効率酸化」の開発を目的とする。 ごく最近、有機分子触媒により金属を全く用いずシクロヘキサンをアジピン酸に常温・常圧で定量的に酸化できる反応を見出した。有機分子触媒の使用量は0.2当量であり、低減が求められている。ここではこの反応を精査するとともに、常温、常圧で、余分な廃棄物を出さず、不活性なアルカンを脂肪酸に定量的に酸化できる反応を開発するために、(1)C-H結合を活性化できる有機分子触媒(前駆体)の精査、(2)硝酸の使用量を低減できる反応条件の精査、(3)TFAの使用量低減を行った。その結果、以下の成果を挙げることができた。 (1)触媒の構造最適化の結果、シクロヘキサンのアジピン酸への酸化に於いては、TFA中、0.10当量でも使用可能な触媒を見出した。(2)直鎖アルカンであるn-オクタンのカプロン酸への酸化に於いては、TFAよりもトリクロロ酢酸が優れていることを見出した。(3)アジピン酸合成は1M、カプロン酸合成は2Mで実施可能となり、単位体積当たりの生産性が格段に向上した。
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