研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
26105748
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中島 誠 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 教授 (50207792)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 不斉触媒反応 / ホスフィンオキシド / アルドール反応 / 連続反応 / 有機分子触媒反応 / 構造修飾 / エナンチオ選択性 / 生物活性物質 |
研究実績の概要 |
立体選択的連続反応の高効率化に向けて、新触媒の開発を行った。当研究室では、キラルなホスフィンオキシドを触媒とする不斉アルドール反応の開発を行ってきた。最近、BINAPOを触媒、四塩化ケイ素を反応剤とすると、ジケトンの分子内不斉アルドール反応が進行することを見出した。本反応では、それまで利用していたトリクロロシリルトリフラートに代え反応性の低い四塩化ケイ素を用いることにより、脱プロトン化しうる3ヶ所のカルボニルα位のうち、アセチル部位のみが選択的に脱プロトン化されたことにより達成されたものである。そこでさらに高効率な触媒の設計・合成を行い種々スクリーニングした結果、BINAPOの4,4'位に置換基を導入した新たな触媒4,4'-TMS2-BINAPOが、より高いエナンチオ選択性を与えることを見出した。本反応で得られるキラルなβヒドロキシβ置換シクロヘキサノンは、他手法では合成が困難なことから、今後の展開が期待できる。本反応の有用性を実証するために、本法を利用した抗菌活性を持つタニコライドの不斉全合成を行った。ヘプタデカンジオンを分子内不斉アルドール反応で環化した後、バイヤービリガー酸化を行うと、目的のタニコライドが高選択的に得られた。これは、(R)-タニコライドの不斉全合成としては最短経路での合成例となる。 これまでに、アルドール供与体の2ヶ所に同じ受容体が反応する連続的二重アルドール反応を開発してきたが、今回、異なる2つの受容体が反応する二重アルドール反応が進行することを見出した。新たに設計・合成した4,4'-Br2-BINAPOは、従来のBINAPOに比べて反応性がマイルドなため、アルドール受容体の僅かな反応性の差を認識することができた。いまだ条件の最適化が不十分で、収率は満足の行くものではないが、初めての3成分連結型アルドール反応であることから、今後の展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である「高効率な新規ホスフィンオキシド触媒の創製」と「アルドール反応を基軸とする新規連続反応の開発」はいずれも達成できたので、研究は順調に進展していると判断する。 高効率な新規ホスフィンオキシド触媒の創製:申請者がその有用性を見出した触媒であるBINAPOの誘導体合成は、リン上のフェニルの修飾に限られてきた。最も効果的な修飾と期待できるナフタレン3,3'位の修飾は、その合成が困難であるが、4,4'位の修飾は、合成上は比較的容易とはいえ、その触媒活性の調整には不向きと思われていた。ところが実際に合成して活性を調べてみると、驚いたことに、非修飾のBINAPOとは反応性・選択性が大きく変化した。それは、置換基の立体的および電子的性質が、触媒の活性や選択性を調節したためと考えられる。この結果は、BINAPO型ホスフィンオキシド触媒の今後の修飾に、大きな進展をもたらした。 アルドール反応を基軸とする新規連続反応の開発:申請者は、アルドール供与体の2ヶ所に同じ受容体が反応する連続的二重アルドール反応を開発してきた。これを発展させたのが、異なる2つの受容体が反応する二重アルドール反応であり、これは、新たに設計・合成した4,4'-Br2-BINAPOにより達成できた。いまだ条件の反応条件の最適化が不十分で、生成物の化学収率は満足の行くものではないが、直裁的アルドール反応として初めての3成分連結型アルドール反応として意義深い。
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今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね順調に進展しているので、この路線でこれからも研究を進める予定である。 BINAPO骨格に置換基を導入してその活性や選択性を調整しようという試みは、リンに結合する炭素に隣接する3,3'位への修飾が長らく試みられてきたが、その合成の困難さから、これまでうまく進展していなかった。ところが最近、BINAPOの類縁体であるBINAPの場合、4,4'位への修飾が効果を表すことがあることが報告されたため、申請者らも類似の検討を行ったところ、BINAPOにおいても、4,4'位への修飾が効果的であることを見出した。4,4'位への置換基導入による化学修飾という、新たなホスフィンオキシド触媒開発の糸口が掴めたので、今後も、様々な置換基を導入してその触媒活性を調べてみたい。導入する置換基の立体的大きさを調整することで、リン上のフェニル基の反応部位への張り出しを調節し、エナンチオ選択性向上を目指す。また、置換基の電子的要因を変化させることにより、反応性を調節して化学収率の向上を目指す。特に電子的要因の変化により、新反応の開発が期待できる。現に、本研究期間に、従来の反応の選択性を向上させたり、新たな反応を開発することができており、今後も多くの発展が期待される。また、これらの新反応を、生物活性物質の短段階合成に応用し、その有用性をアピールしたい。 現段階では、これといった問題点を見出すことはできないが、万一、触媒の4,4'位への修飾に限界を見出した時は、リン上のフェニル基の修飾に立ち戻り、検討を続けたい。
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