公募研究
1) 芳香族ジイン系の環化異性化反応: 本反応は完全無水条件下ではまったく進行せず、アルキニルナフトール部位から反応活性種(ビニリデンオルトキノンメチッド: VQM)が生成するプロセスを水が促進することを見出した。この水による反応加速効果は、DFT計算によっても支持された。この結果は,キラルな酸触媒を用いる新たな不斉環化異性化反応の開発につながるものと期待される。2) 芳香族エンイン系の環化異性化反応: VQM環化の位置選択性および立体選択性に及ぼす基質の置換基効果を明らかにすることができた。これにより,特異な三環性縮環構造を有するヘテロ環式化合物の高効率的かつ高選択的合成に向けて,有用な知見が得られた。現在この反応を活用して,新奇な拡張π共役系擬アズレン誘導体(ヘテロピセン)の一般的合成法の開発を検討中である。3) 芳香族エンイン系のヨード環化反応: エンイン系基質に塩基とヨウ素を作用させると環化反応が著しく加速され、基質の置換パターンに関係なくヨード基を含むスピロ系化合物が高選択的かつ高収率で得られることを見出した。 エナンチオ選択性は未だ不十分であるが,キラルな塩基を用いる不斉反応系の開発にも成功した。4) スピロ系化合物の新規骨格転位反応: 上述のスピロ系化合物にトシル酸を作用させることで,ビアリール骨格を有するヘテロ多環式化合物が高収率で得られることを見出した。この酸触媒を用いる新規骨格転位反応によって得られるビアリール体は,官能基変換が容易なヨード基を有しており,オキサヘテロ[7]ヘリセンへと誘導可能であることも示すことができた。今後,この反応を利用して,ビアリール体の軸不斉をヘテロヘリセンのらせん不斉に転写する不斉合成反応系の開発を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本研究は,従来法では合成困難なヘテロ多環式化合物の高効率的合成法の開発を目指している。研究実績の概要で述べたように,本研究の鍵となるビニリデンオルトキノンメチッド(VQM)の生成メカニズムについて有用な知見を得ることができた。さらに,「芳香族エンイン系の環化異性化反応」,「芳香族エンイン系のヨード環化反応」,「スピロ系化合物の骨格転位反応」などの開発・改良に成功するともに,それらを利用した拡張π共役系化合物の新規合成ルートの開拓についても興味深い結果が得られつつある。得られた結果を論文にまとめて投稿するにはデータが不足しているが,研究は概ね順調に進展していると考えている。
1) ビニリデンオルトキノンメチッド(VQM)の生成を鍵とするドミノ環化反応の反応機構の解明: 芳香族ジイン系の環化異性化反応において見出された水の加速効果について,実験および理論計算による解析をさらに進める。得られた知見を基に反応機構の解明を行うとともに,「キラルなプロトン酸」を用いる新たな不斉反応系の開発を行う。また,芳香族エンイン系についても,同様な検討を行う。2) 新奇な拡張π共役系擬アズレン誘導体(ヘテロピセン)の一般的合成法の開発: 前年度までに開発した芳香族エンイン系の環化異性化反応を活用する。3) ヘテロヘリセンの不斉合成: 前年度までに見出した芳香族エンイン系のヨード環化反応と得られるスピロ系化合物の骨格転位反応を組み合わせて,キラルなヘテロヘリセン各種の不斉合成法の開発を検討する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (18件) (うち招待講演 3件)
ARKIVOC
巻: 2015 ページ: 印刷中
有機合成化学協会誌
巻: 72 ページ: 1131-1142
http://dx.doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.72.1131