本研究では,ナノ構造と材料機能の関係を明らかにするデータ駆動型科学アルゴリズムを開発する.採用第1年度目の平成26年度では,電子状態の第一原理的な理論計算データから,ベイズ推論によって有効モデルを自動的に抽出するアルゴリズムを構築した. 採用第2年度目の平成27年度では,上記のベイズ推論に基づく有効モデル選択の枠組みに対し,ボルツマン因子によって温度を導入することにより,実験系の物理とコンシステントな条件下で理論計算を行う手法の開発を行った.ボルツマン分布では,高温になるにつれて一様分布に近づいていくため,すべてのスピン配列がエネルギーにかかわらず等価にサンプリングされる.一方,低温では基底状態まわりの低エネルギーをもつスピン配列がサンプリングされやすくなる.この手法では,以上のような実験に近い描像を表現することができるため,ある温度での状態,例えば室温や低温などの現実的な温度で議論できる.この手法を,フラストレートしたNiGa_2S_4三角格子系における非制限ハートリー・フォック近似による電子状態の数値計算データに適用した.その結果,これまでの理論先行研究では実験と定性的に一致していなかった最近接交換相互作用の符号が本研究では一致することが確認された.この結果は,反強磁性の第三近接相互作用と強磁性の最近接相互作用の競合によって,量子スピン液体がNiGa_2S_4において実現する可能性を示唆するものである.このように,フラストレートした複雑な系においても適切な有効モデルの選択が可能であることを示した. また,ベイズ推論において,ベイズ比熱という量を定義し,データの数やノイズレベルなどの変化に応じて,推定の成否が変化する点をベイズ比熱により抽出できる場合があることを発見した.
|