研究領域 | ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開 |
研究課題/領域番号 |
26106507
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
東 正樹 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 教授 (40273510)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ペロブスカイト / 負熱膨張 / 強誘電転移 / 電荷移動 |
研究実績の概要 |
BiCoO3は、結晶構造の縦横比であるc/aが1.27という、巨大な正方晶歪みを持つPbTiO3型のペロブスカイト化合物である。加圧すると約2.5GPaで13%もの巨大な体積収縮を伴って、常誘電相へと転移する。また、1.5GPaの圧力下で昇温することでも同様の転移を観測することが出来る。この昇温による体積収縮を常圧下で起こすことが出来れば、工業的に重要な負の熱膨張につながると期待される。そこで、同様の結晶構造を持つ化合物に着目し、高圧合成の手法を用いてBi2ZnVO6を合成、これがBiCoO3と同程度のc/a=1.26の正方晶歪みを持つ事を確認した。さらに、ダイヤモンドアンビルセルを用いた放射光X線回折実験を行い、同様の結晶構造を持つBiCoO3、Bi2ZnTiO6、Bi2ZnVO6の圧力下の結晶構造変化を調べた。この結果、Bi2ZnTiO6は加圧と共に連続的に体積が減少し、常誘電相への転移も比較的マイルドな圧力である1GPaで、ほぼ連続的に生じる事が分かった。負熱膨張物質の母物質として有望であるが、常圧下の昇温で転移を起こすには、大きすぎるc/a比を減少させる必要がある。Bi2ZnTiO6ではd0のTi4+が持つ二次のヤーンテラー効果のためにPbTiO3型の構造歪みが起こっていると考えられる。c/a比を減少させるには、d電子を持ち、かつ絶縁性を期待できるd3またはd6のイオンでTi4+を置換することが効果的と考え、高圧合成法でBi2ZnTi1-xMnxO6を合成したところ、x=0.4でc/a~1.06にまで減少させる事に成功した。 また、BiNiO3のNiをFeで一部置換した試料が巨大な負熱膨張を示す事を確認、エポキシ樹脂に分散させることでゼロ熱膨張コンポジットを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BiCoO3、Bi2ZnTiO6そしてPbVO3は負熱膨張への期待の他、巨大な自発分極を持つ事から、強誘電体としても注目を集める物質群である。しかしながら、何れもc/a比が1.2以上と大きすぎるため、分極の反転を起こすことが出来ていなかった。この物質群にBi2ZnVO6という新物質を付け加えた事は大きな成果である。さらに、独自の物質設計によりc/aを減少させる手法を開発、Bi2ZnTi0.6Mn0.4O6においてc/a~1.06を実現した。負熱膨張を実現する、という目標に大きく近づいた。BiNiO3に関しても、これまでのBiサイトの希土類置換ではなく、NiをFeで置換するという新しい方策で負熱膨張を実現し、さらにエポキシ樹脂に分散させることで、限られた温度範囲ではあるが、ゼロ熱膨張を実現したことは、研究の一里塚である。こうした事から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
Bi2ZnTi1-xMnxO6については、昇温時の結晶構造変化、特に体積の変化を調べる。また、放射光X線粉末回折データのリートベルト解析で原子座標を精密化し、電気分極の大きさと方向を求める。これらにより、負熱膨張の有無を確認するだけでなく、負熱膨張が生じない場合にもその理由を考察することが出来る。例えば分極が大きすぎることが負熱膨張の妨げになっているようであれば、TiをMnで置換するのと同時にZnを他の元素で置換することが考えられる。 巨大な圧力誘起体積減少を示す物質として、PbCrO3の研究も行う。PbをSrで置換すると、組成に応じてPb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3相からSr2+Cr4+O3相への転移が起こり、両者の間には10%もの体積差があることは確認したが、残念ながら温度変化による相転移は起こせていない。これは体積差が大きすぎるためであると考えられるので、イオン半径の大きなBaで置換した、Pb1-xBaxCrO3で負熱膨張の実現を試みる。 研究のもう一つの柱として、電子顕微鏡観察を通じ、Bi1-xLaxNiO3の負熱膨張に伴うドメイン構造変化の観察を掲げた。この物質では転移が100K以上の広い温度範囲にわたって起こるため観察に成功していないが、BiNi1-xFexO3ならば転移がシャープであるため、観察に成功する可能性が高い。
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