本研究課題は,ゲル基質を用いて上皮細胞に腸管絨毛のような立体構造(チューリップハット様の構造)を形成させるシステムを構築することを目的とする.研究代表者はこれまでに,上皮細胞をマトリゲル上に播種すると,上皮シートの辺縁部が内側に収縮し,ゲル基質を変形させながら回転運動を行い,絨毛構造を形成することを発見した.本研究では,この現象を組織再生の基礎技術とするために,①上皮シートの辺縁部が収縮する機構,②ゲル基質の粘性がもたらす効果,③シート全体が回転運動する機構の3点に焦点を当てて研究を遂行した. 平成27年度では,交付申請書における研究実施計画に従って,リーダー細胞の出現による形態形成への機序解明と様々な粘性係数をもつ粘性基質の開発を行った.実験の結果,上皮間葉転移(EMT)を誘引する受容体を薬剤阻害してもチューリップハット構造の形成が阻害されることはなかった.リーダー細胞の出現,およびチューリップハット構造の形成にはEMTのシグナル経路は関与しないことが明らかとなった.また,粘性基質の開発については,シリコーンオイルにPDMSを混ぜることで任意の粘性係数を実現することに成功した.粘性基質上に播種した上皮細胞が様々な形の突起構造,管状構造を形成することを発見した.さらに,従来法であるマトリゲルに架橋剤としてゲニピンを混ぜることで,任意の粘性係数をもつ新規のマトリゲル基質を開発した.ゲニピンの濃度を調節し,粘性係数を変えことで任意のサイズの突起構造を形成させることに成功した. これらの結果は,平成27年度内にScientific Reports誌に原著論文として公開することができた.
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