研究実績の概要 |
細胞を用いて臓器のような3次元形状を形成するために、細胞を人為的操作によって任意の形に積み重ねていく方法、細胞が持つ性質を利用して構造体を形成させる方法、が提案され、研究が進められている。後者の方法の場合、細胞や細胞集団による運動性と力学性質を理解することは大変重要である。このために本研究では、①ゲノム編集した細胞での力学性質と運動性の評価、②モデル上皮細胞株を用いた集団的運動性の機構解明、③iPS細胞由来の心筋細胞での力学性質の機構解明、にそれぞれ取り組んだ。 ①では、ヒトAAVS1遺伝子座への遺伝子改変には、細胞の力が変化することを明らかにした(2015 T. Mizutani, Biochemical and Biophysical Research Communications)。AAVS1領域への遺伝子改変は細胞に影響が出にくいとされているが、本研究ではミオシン分子の活性の変化により細胞の力が変化することを実験的に示した。更に、AAVS1領域に遺伝子改変を加えた細胞と野生型の細胞との間での移動速さの違いを計測した。有意な違いを計測できなかったものの、野生型の移動速さが高い傾向にあった(2016 T. Mizutani, Data in Brief)。 ②では、細胞-基質間に発生する力を評価する技術、細胞集団における細胞の各細胞の核の位置の時間変化を計測する技術を構築し、それらに基づいた研究成果を発表した(2015年 水谷武臣、バイオアセンブラシンポジウム)。 ③では、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞に対して、心拍エネルギーの計測に成功した(2016 T. Mizutani, Regenerative Therapy)。iPS心筋細胞内には、心筋型のミオシンによる繊維と非心筋型のミオシンによる繊維が存在し、非心筋型のミオシンの繊維が拍動の抵抗となっていることを明らかとした。
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