損傷を受けた脳は再生しないと長く考えられてきたが、成体脳における神経幹細胞の発見をきっかけに、脳の再生医療実現化も現実味を帯びてきた。その実現化にむけた戦略として、成体の神経幹細胞から生み出された新生ニューロンを損傷領域に再配置させ、機能回復をめざす戦略が注目を浴びている。最近の研究により、脳が損傷を受けると、内在性の神経幹細胞から産み出された本来嗅球へと向かって遊走するニューロンが、脳の損傷領域に向かって遊走することが明らかとなってきた。さらに、ニューロンは血管を足場として遊走することも明らかとなってきた。しかしながら、損傷中心部と損傷周辺部の間にはアストロサイトによって形成されたグリア瘢痕が2つの領域のバリアのように存在し、遊走ニューロンは損傷中心部まで遊走しないという問題点があった。本年度の研究では、ニューロンを損傷中心部まで遊走させる技術開発に挑んだ。具体的には、我々が独自に開発した、基底膜成分を由来とした多孔性人工血管マテリアル(マトリゲルスポンジ)をニューロンの人工足場として損傷中心部に移植することで、ニューロンを損傷中心部まで遊走させ、配置させることに成功した。また、ゼラチンを材料にして作製したゼラチンスポンジには遊走活性が認められず、ラミニンを材料にして作製したラミニンスポンジにはマトリゲルスポンジと同様な活性があったことから、ニューロンの遊走活性にはラミニンが重要であることが示唆された。さらに本年度は、生体外におけるニューロン、アストロサイト、血管内皮細胞の共培養システムの開発に取り組み、生体内で起こる現象を生体外で解析するために必要な実験系の立ち上げを行った。
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