研究領域 | 超高速バイオアセンブラ |
研究課題/領域番号 |
26106715
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梅嶋 宏樹 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 研究員 (40525375)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 脳・神経 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
哺乳類脳の発生過程でニューロンは移動し、生体で最も高度に組織化された皮質や神経核に整然と配置する。ニューロン移動の破綻は重篤な神経疾患の原因となるため臨床医学的にも重要な課題であり、移動制御分子が数多く同定されてきたが、シグナルの時空間的動態が如何に制御され細胞(核)を動かす力を発生させるかは明らかではない。本研究では、神経細胞移動をマイクロ流路(先導突起)を移動する核のレオロジーと捉え、高速共焦点顕微鏡で得た詳細な経時的画像データから定量的画像解析手法を用いて核移動の力学的性質を明らかにする。 これまでに得られた経時的画像データから核が変形・回転を伴って移動していく様子が観察されている。本年度は核の変形・回転の特徴量を画像解析により抽出し、核移動ダイナミクスの定量的評価を行なった。 核の変形評価のため、蛍光標識した核の画像データから輪郭点を抽出し核の周辺曲率の時空間的変遷を定量した。その結果、移動を開始する際に核前方の周辺曲率が一時的に上昇する(先端が突出する)傾向があることを見出した。この結果は細胞核が前方から牽引されていることを示唆する。この可能性をさらに検証するため、traction force microscope法により移動の際に細胞が足場となる基質に及ぼす力の測定を行ない、先導突起が核を牽引することを強く示唆する結果を得た。 また、核の回転運動を評価するために、蛍光標識した核内ヘテロクロマチン構造を3次元的に追跡することで回転速度および回転軸の定量を行なった。この結果からは移動中の神経細胞の回転軸には移動と相関する方向への偏りがあることが明らかになった。また、異なる培養期間の細胞間での比較から核の回転は移動中の細胞に特異的に見られる現象であることが分かった。これらの結果は、核の回転が核移動の際に作用する力の不均衡によって引き起こされるというモデルを支持する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの神経細胞移動研究の多くが特定の分子を阻害することで核移動が停止するかどうかのみに着目していた。この手法では当該分子群がどのような時空間的制御を経て核を動かす力を発生させるのかを明らかにすることは難しい。本研究では、高速共焦点顕微鏡を用いた高解像経時撮影と画像解析手法により核移動に伴う形態の動的なゆらぎや回転を定量的に評価する手法を確立し、これまで不明だった核移動の力学的性質を検証することを可能にした。さらにtraction force microscope法を導入することで神経細胞が移動中に細胞外基質へ作用する力を測定することにも成功した。これまで提唱されている神経細胞移動のモデルは細胞骨格分子の局在等から推測したものであり、移動中の神経細胞における力の分布を直接観測した報告はいまだ存在しない。また、traction force microscopeは細胞核イメージングと同時に行なうことができることから、細胞内外における力の動態を同一の細胞で比較することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに確立した解析手法を用いて核の移動・変形ダイナミクスとtraction forceの関係を検証する。細胞が核を駆動する際には力発生の足場となる基質には核移動と逆方向の力が負荷されると考えられる。そこで核移動と相関するtraction forceの時空間的解析により、核移動を駆動する力の発生源を明らかにする。さらに薬理学的・分子生物学的手法を用いて力発生の分子的実体について検証を行なう。薬剤の局所投与システムにより力発生に必要と考えられる細胞骨格系の阻害剤を局所的に投与し細胞核ダイナミクスおよびtraction forceへの影響を検討する。また、移動期の神経細胞から核を単離し原子間力顕微鏡等を用いて核のレオロジー特性を計測する。得られた結果と移動中に見られる核の変形ダイナミクスから核に作用する外力の分布を推定する。これらの手法によって細胞内外における力の分布を比較することにより、神経細胞移動の力学的メカニズムを明らかにすることを目指す。
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