研究領域 | 超高速バイオアセンブラ |
研究課題/領域番号 |
26106723
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
安川 智之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (40361167)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表現型 / マイクロ流路デバイス / 細胞分離 / 誘電泳動 / 電気化学顕微鏡 |
研究実績の概要 |
「四重極電極を組み込んだマイクロ流路デバイス」を用い,「誘電泳動による細胞および抗体固定化微粒子の迅速な集積による免疫ラベル化」と「細胞表面抗原の発現量に応じた分離・回収システムの構築」を行った.この技術を基盤として細胞膜表面に発現する抗原の表現型(フェノタイプ)を迅速で簡便に解析し,さらに,発現量に応じた分離・回収が可能なシステムの構築を行っている.誘電泳動による迅速な細胞配列化技術を,「印加電圧周波数を切り替える」だけで異なる細胞パターンを作製できる技術へと応用し,迅速で簡便な細胞表面抗原解析システムの構築を行った.さらに,この技術を細胞の分化に伴う表面抗原発現解析へと応用展開し,3種類の表面抗原の発現量増加および減少に伴う発現解析をラベルフリーで達成した.四重極電極を用いた細胞凝集塊形成では,細胞と微粒子を同じ位置に集積化し,免疫反応を利用して細胞-微粒子複合体を形成することができた.複合体の形成からターゲットの表面抗原の発現を解析可能とした.このシステムは,簡便,迅速に均一サイズの細胞凝集塊(スフェロイド)を大量一括で作製するツールとして利用可能であることを実証した. また,誘電泳動による細胞操作技術をマイクロ流路デバイスによるフローシステムに適用し,細胞の表面抗原発現量に応じた超高速な分離・回収へと適用した.マイクロ流路内を流れる微粒子や細胞の流れ位置をサイズ別に制御できることを示した.マイクロ流路の上下面に微小電極構造を形成し,負の誘電泳動による反発力を利用して大きな反発力を受容する細胞を流路の壁面に誘導するシステムを作製した.また,血中循環腫瘍細胞(CTC)の分離・回収を達成するために,細胞懸濁液中にサイズの大きな細胞を極わずか(0.1-1.0%)に混在させ,その分離に関する検討を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度において,予定していた研究項目をすべて遂行し,当初予定以上の成果を得ることができた.よって,本研究は,当初予定以上に研究が遂行できていると判断できる. 2枚の交互くし型(IDA)電極を上下に組み合わせた四重極電極を用いて,迅速に細胞および微粒子(直径500 nm)の海島状パターン作製技術を行った.標的の表面抗原に対する抗体を固定化した微粒子およびCD33を発現するHL-60細胞を,負の誘電泳動により四重極電極の格子点に集積化した.免疫反応により迅速で簡便に抗原発現細胞-微粒子の複合体を形成することができ,ラベルフリーで細胞母集団の中から標的抗原発現を調査することができた. 細胞集積用電極および発現量別細胞分離電極(分離器)から構成される流路デバイスに作製を行った.流れの方向に対し一定の角度を有するバンド電極対を作製し細胞集積用電極とした.流路中をランダムに流れる細胞を負の誘電泳動により流路中央部へと集積化できた.一部を絶縁被覆したバンド電極対から成る分離器およびギャップ幅の異なる交互くし型電極を上下で組み合わせた分離器を作製した.この分離器を用い,サイズの異なる赤血球および白血球の分離を行った.サイズの小さな赤血球は絶縁被覆部位を選択的に通過し,サイズの大きな白血球は強い反発力を受容するため絶縁被覆部位を通過できなかった.よって,この分離器を用いると,サイズの異なる赤血球と白血球を分離でき,下流にて流路を分岐させることにより異なるチャンバーに回収することができた. 誘電泳動を利用して酵素(グルコース酸化酵素)修飾微粒子および表面抗原発現細胞をマイクロウェルアレイ内に捕捉した.SECMを用いて,この酵素活性を検出できた.酵素修飾微粒子で細胞表面抗原をラベル化し,単一細胞レベルでの表面抗原発現量の定量に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
四重極電極を用いて細胞および微粒子の海島状パターンを作製する.標的の表面抗原に対する抗体を固定化した微粒子および細胞を,負の誘電泳動(n-DEP)により四重極電極の格子点に集積化する.これにより,迅速に免疫反応で抗原発現細胞-微粒子の複合体を形成する.本年度は,比誘電率および比重の大きいチタン酸バリウム粒子(直径200 nm)を用いる.この細胞-微粒子複合体の誘電泳動挙動を調査し,流体デバイスを用いた分離に応用する. 細胞集積用電極および発現量別細胞分離電極(分離器)から構成される流路デバイスを作製する.前年度,集積用電極に負の誘電泳動の作用する交流電圧を印加し,流路の中央部に細胞および細胞-微粒子複合体を集積化することができた.また,分離器によりサイズの異なる赤血球および白血球の分離が可能であった.本年度は,表面抗原発現細胞-微粒子複合体と未修飾細胞の混合物を四重極電極流路デバイスに導入し,修飾量と流れ位置の関連について詳細に調査する.分離分解能の向上を目指し,細胞濃度,印加電圧,電極デザインの最適化を行う.サイズの異なる細胞を導入し,微粒子修飾なしでもサイズ別分離が可能であることを示す.ハイスループットな分離のため,送液速度と分離効率の関連について明らかにする. マイクロ電極をプローブとしたSECMで個々の細胞に発現する抗原量を定量する.誘電泳動を利用して表面抗原発現細胞をマイクロウェルアレイ内に捕捉する.同様に酵素(グルコース酸化酵素)修飾微粒子(直径20 nmから800 nm)をウェルアレイ内に誘導し免疫反応により表面抗原をラベルする.酵素修飾微粒子を免疫ラベルとして用い,1分子の表面抗原への修飾酵素量を増大(100倍程度)させる.グルコース酸化酵素の基質であるグルコースの存在下において生成される過酸化水素の酸化電流をマイクロ電極で検出し.単一細胞レベルでの表面抗原発現量の定量を行う.
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