研究実績の概要 |
初年度である今年度は, 高品質単層二硫化タングステン(WS2)の合成と, 光物性評価に特化した研究を行い, 以下の成果を得た. (1) 高品質大面積WS2の合成 本研究では熱CVDにおける原料ガス, 触媒, 合成温度等の最適化を通じた, 高品質, 大面積WS2結晶の合成を試みた. その結果, 極めて狭い特定の合成条件下において, 100um程度結晶サイズを持つ高品質大面積WS2合成に成功した. また, 詳細な発光スペクトルの空間分布測定から, 合成したWS2が面内一様にかつ非常に強い発光強度を示すことを明らかとした. この結果は, 非常に良好な品質のWS2単結晶が合成できたことを意味している. (2) WS2における局在励起子の観測 上記の手法で合成した単層WS2の低温 (80 K) 下における, PL特性の空間分布を精密に測定した. その結果, WS2のグレインバウンダリーにおいて非常に狭い(~10 meV)半値幅を持つ特異なPLピークを観測することに成功した. このPLスペクトル, 及びPLピークが得られる空間分布の温度依存性等を詳細に測定した結果, 今回観測されたピークが, グレインバウンダリー欠陥周辺に物理吸着したN2分子に, 自由励起子が補足されることにより生じた極めて強い局在状態を有する局在励起子からの発光であることを明らかとした. この様な, 原子層薄膜中における局在励起子の存在を実験的に明らかにしたのは本成果が初めてのものである. 一般に局在励起子は, 高い発光効率, 及びコヒーレントな光を持つことから, 主に光量子応用分野に向け大きな注目を集めている. 従って, 本発見は, 原子層薄膜の光量子分野への応用の可能性を見出した点で重要な意味を持つものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は, 高品質大面積WS2の合成を主目的として研究を行った. 当初の予定では, 原料ガスをプラズマ化したプラズマCVDを用いる予定であったが, 本反応は複雑なため, その前段階として熱エネルギーのみにより原料ガスをかい離する熱CVDを用いて, 高品質・大面積のWS2合成に取り組んだ. その結果, 結晶サイズ100umを超える非常に高品質な単層・単結晶WS2の合成に成功した. 次年度以降では, 本装置にプラズマ効果を取り入れ, 更なる高品質材料の合成を目指す予定である. また, 上記のWS2高品質合成に加え, 詳細な光物性測定を通じ, WS2中に存在する局在励起子の存在を世界で初めて明らかにした. 本結果は, 当初予定には含まれていなかった研究成果であることから, "当初の計画以上に進展している"と判断した次第である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 初年度に開発した高品質WS2合成, 及びプラズマを用いた機能化に関連した, 下記研究課題を重点的に進める予定である. (1)プラズマCVDを用いた超高品質・大面積WS2の合成 前年度までは, 熱CVD法を用いたWS2の合成に取り組み, 比較的大面積・高品質なWS2合成に成功した. そこで, 次年度以降では, 我々が有するプラズマ理工学的学術基盤を用いてWS2のプラズマCVD装置を開発する. これにより, 更なる精密な合成条件の制御が可能となり, 大面積かつ超高品質なWS2の合成を実現する. (2)プラズマ機能化によるWS2の新物性発現 初年度に合成した高品質WS2に対してマイルドプラズマ反応による選択的エッジ修飾を行う. マイルドプラズマ反応とは, 我々が開発した選択的機能化法であり, これまでグラフェンエッジへの選択的原子・分子の修飾, 及びこれによるグラフェン全体の電子状態制御の可能性を実証している [Small 7, 574 (2011)]. この方法を応用することにより, 本研究では, WS2原子層物質のエッジにおいて, W原子をMo原子に, あるいはS原子をO, N原子に置き換える反応を実現する. この選択的エッジ修飾により, WS2の新物性発現を実現する.
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