研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
26107506
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
藤田 淳一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10361320)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グラフェン / 表面吸着水 / インデント / 弾性変形 / AFM |
研究実績の概要 |
本年度は、AFM (Bruker Dimension ICON)プローブを用いたナノインデンテーション法(PeakForceQNM法)によって、グラフェンやhBN、さらにはこれらの積層体の表面変形量の計測を行い、層間相互作用計測に向けて、弾性変形量を同定した。 (1)グラフェンで覆われた表面吸着水の硬さ:基板上に張り付いたグラフェンは、表面吸着水などの吸着物質を基板とグラフェンの間に挟み込みむ。吸着水を挟み込んだ領域に対して表面弾性変形量を計測した結果、吸着物質直上では、基準としているSiO2よりも非常に硬くなっていることが判明した。単層の表面水は、液状というよりは、極めて硬い結晶のような状態で存在すると考えられる。吸着水がFET特性を強くP型にシフトさせるのも、液体の分極というよりは、非常に硬い固体状の水分子結晶の分極によるとも考えられる。 (2) 単層・多層グラフェン表面の弾性変形量:単層グラフェンの場合には、おおよそ1 GPaの圧力でグラフェン表面が歪み始め、プローブの先端曲率約20~50 nmの領域でおおよ0.2 nm程度の窪みを形成することができる。一方で、多層グラフェンの場合には10 GPa程度の圧力を掛けて初めてグラフェンスラブ全体に窪みができることが判った。この場合、層数自体は4~5層であるから、各グラフェンの層間は約0.03 nmほど、つまり層間格子定数が約10%程度縮む事がわかる。今回の実験で観測された局所加圧に対するC軸格子定数の変化は、バルクのグラファイトに対する超高圧圧縮実験結果とほぼ同じ値である。 これらの局所加圧実験結果から、AFM探針を用いた局所ナノ加圧法でグラフェン面を効果的にインデントして格子間距離を変化させることができること、また、単層グラフェンの場合には充分な局所歪みを導入できることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究提案では、AFMプローブ等を用いたDLCナノインデンターを開発し、(1) 単層グラフェン面内への1次元および2次元の格子面内への歪導入によるギャップ生成と電子物性、(2) 2層および多層グラフェンの層間圧縮に依存した層間相互作用、(3) グラフェンと他材料(hBNやMoS2等)の間の層間相互作用、ならびに局所格子歪による電子状態、(4) グラフェン面内への局所歪みの導入によるエッジ状態の出限、局在スピン分極、局所磁場発現等の解明を目指している。 現時点では、AFMプローブを用いてグラフェンへの局所加圧を行い、グラフェンの層間格子定数を変化させることが、可能であることを実験的に証明できた。また、現在用いているKPFM法による測定手法では、導電性プローブを用いる事で加圧しながら、同時に局所的な電子伝導を計測することが可能であり、計測実験を継続中である。また、これらの結果は今年のNT15国際会議にも投稿し、研究自体はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これらの予備的な局所加圧実験結果から、AFM探針を用いた局所ナノ加圧法でグラフェン面を効果的にインデントして格子間距離を変化させることができること、また、単層グラフェンの場合には充分な局所歪みを導入できることが判明した。この後、単層と2層の段差を持つグラフェン試料の調整技術をブラシュアップしていく。また、He-FIB加工技術を併用しながらグラフェンFETチャネルを充分に狭くした加圧実験系を作成し、局所加圧に対する層間電子伝導特性やグラフェン面内歪と電子伝導特性を計測し、層間相互作用の解明を進めていく。
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