公募研究
本研究では量子論に基づく計算科学の手法を用いて、種々の原子層物質と種々の広義異種物質とから形成される複合構造体の基礎物性の解明を行い、そこで得られた知見を基に、原子層の関わる複合界面科学構築の糸口の提示と、原子層物質を用いた機能性デバイスの設計指針の 提示をおこなうことを目的とする。初年度は、まず、電界下におけるナノグラフェンリボンの電子物性の解明をおこなった。グラフェンリボンに対して平行電界を印加すると、端形状に依存した得意な遮蔽現象が発現する。すなわち、ジグザグリボンでは端近傍において電界に対する過遮蔽現象が発現するのに対して、アームチェアリボンでは結合交代に起因する階段状の電界遮蔽がリボン中において見られることが明らかになった。さらに、横電界下においてリボンの外側にリボン端に平行に分布する自由電子状態が電界を強くすると低エネルギーシフトし電子注入が可能であることも明らかにした。つぎに、3つの5員環(アセペンタレン構造)から構築される、新奇2次元炭素シートの物質設計と物性解明を行った。その結果、この新規2次元炭素シートがエネルギー的に非常に安定であることを示し、さらに、端や欠陥を有さない完全位飽和したsp2炭素ネットワークにもかかわらず、スピン分極を示す可能性があることを示した。すなわち、全炭素原子からなる2次元の強磁性シートの可能性を提示した。最後に、欠陥を有するCNTのFET構造中における電荷蓄積機構の理論的解明を行った。ここでは、各種欠陥を有するCNTに対して電界印加によりキャリア注入を行い、キャリア注入に要するゲート電界と欠陥の種類、CNT配向の間の相関を調べた。その結果、 CNT中の欠陥はCNTに対して内部電界を誘起し、外部電界と競合/強調することによりCNT配向に応じたキャリア注入に要するゲート電界のばらつぎが存在することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
電界下におけるナノグラフェンリボンの電子物性に対する知見の蓄積、各種欠陥を有するsp2ネットワーク物質の基礎物性の解明を行った。その結果、複合構造形成によるこれら原子層物質の物性の変調を明らかにする。一方、カルコゲナイド系原子層物質複合構造に対する基礎的な知見も得られつつあり、当初計画に沿った研究の進展が得られている。
複合構造体の基礎物性解析の結果を基盤として、高次複合構造体、すなわち、デバイス構造を念頭に置いて、原子層物質/異種物質基板/外部電界、金属電極/原子層物質/絶縁体基板といった3要素以上からなる複合構造体に着目し、その基礎物性を第一原理計算によりおこない、デバイス設計指針の提示に必要な知見の蓄積を行う。その知見を統合することにより原子層新奇デバイスの設計指針の理論的提示を行う。さらに、種々の原子種を用いて、新規2次元原子層物質の物質設計を行う。特に、炭素に着目し、その蜂の巣ネットワーク構造へのトポロジカルな欠陥の導入により、磁性等の新たな物性発現が期待される原子層物質の物質設計を量子論に立脚した第一原理電子状態計算の手法を用いて行う。原子層物質の物質設計については、原子層物質のネガ版と看做すことが出来る、原子空孔からなる原子層状物質の物質設計も同時に行う。特に、半導体表面に構築されたダングリングボンドが、そのネットワーク形状に依存した特異な電子物性を発現させることに着目した物質設計をトポロジカル、第一原理的手法を相補的に用いて実施する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (17件) (うち査読あり 17件、 謝辞記載あり 17件) 学会発表 (5件) 産業財産権 (1件)
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