研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
26107513
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米谷 玲皇 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90466780)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グラフェン / メカニカル振動子 / NEMS |
研究実績の概要 |
本研究は、グラフェンの優れた機械特性,軽量さ,電子デバイスとの親和性を様々なNEMS(Nanoelectromechanical systems)振動子高感度センサ作製へ応用するための学術的,技術的基盤を築くことを目的としている。具体的には、超高感度センシング達成に必須のグラフェンメカニカル振動子の高Q値化手法や高感度な電気的振動検出手法の構築,基礎的研究の完成を目指している。 平成27年度は、高Q値グラフェン振動子作製の取り組みを進めた。グラフェンは原子層材料という特殊性からその表面状態や結晶性,内部応力等と共振特性の関係性が未だ不明瞭な材料であり、特に、加工に伴い変化すると推測されるそれら物性が共振特性へ与える影響を評価した。グラフェン振動子は、CVDグラフェンを利用し、SiO2基板上に作製した。作製したグラフェン振動子は正方型のメンブレン型振動子とし、その架橋部(振動部)の寸法は2μm~6μmである。結果として、集束イオンビーム加工は、グラフェンの結晶性や表面粗さを悪化させるもののグラフェンへのGa混入の影響でQ値を上昇させること、また、グラフェン振動子に集束イオンビーム加工を行わずアニール処理(アニール温度:700℃, アニール時間:60分)のみを施すことにより表面粗さやたわみが低減,結晶性が向上しQ値は改善するが、集束イオンビーム加工を行った後のアニール処理は、Ga脱離の影響も現れ、Q値向上という点では効果的ではないことがわかった。また、アニール処理に伴うひずみ印加が、グラフェン振動子の熱弾性ダンピングを低減させ、Q値向上に大きく寄与していることを見出した。これらの本研究では獲得した作製プロセスと共振特性の関係性に関する知見は、振動子作製プロセスに柔軟に応用,適用させていくことができることから高Q値グラフェン振動子達成のために有効な学術基盤になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度においては、当初の計画に従い、グラフェンメカニカル構造体の表面状態や結晶性,内部応力等と共振特性の関係性の評価を行った。上記したように、グラフェンは原子層材料という特殊性から、共振特性や材料物性の関係性や加工が共振特性に及ぼす影響について、未だ不明瞭な点が多い材料である。特に、加工と共振特性の関係性については、学術誌等で詳細に開示されていない部分でもあり、本研究で得られた一連の材料物性と共振特性の関係性は、グラフェンの機械振動物性についての理解をすすめ、センサ応用に向け優れた共振特性を実現していく上で、極めて有効な知見であるといえる。高Q値グラフェン振動子の作製に向け、一層効果的な適用法,プロセスを検証する必要はあるものの、その作製プロセス,高Q値化プロセス構築において共通性の高い成果であると期待される。そのため本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、高Q値グラフェンメカニカル振動子達成に向け、Q値に大きく関係する振動状態におけるエネルギー散逸機構,高Q値化プロセスの研究を行う。エネルギー散逸機構については、前年度に獲得した知見をベースに、表面状態やひずみ、結晶状態等についての評価を一層詳細に行う。グラフェン振動子の表面状態やひずみを材料科学的アプローチで段階的に制御し、その影響の評価を行う。高Q値化プロセスについては、振動子作製プロセスへの表面状態改質プロセスやひずみ印加プロセスの適用性,組み込みを進めていく。なお、共振特性の評価は、光ヘテロダイン振動計測法,及び独自技術である原子間力顕微鏡を利用した振動計測法を活用し行う。 加えて、振動変位の電気的検出に関する研究を行う。現在のところ周波数変調法による振動の電気的検出を行う予定である。振動子は、力学的,電磁気学的な物理量などさまざまな対象をセンシング可能な素子であるが、その多くは振動子自身の変位(振幅変化)の検出性能によりセンシング感度が決定される。そのため本研究では、変位検出感度を評価項目として研究をすすめる。高感度センシングに向け、電気信号処理方法やデバイス構造に関し検証を行い、振動(変位)-電気信号変換の基礎的研究を行うことにより、センシング構造としてのグラフェンメカニカル素子機能化のための基盤構築を目指す。 以上により、原子層材料であるグラフェンの実用極限センシング応用に資する共通基盤技術,知見の獲得を目指す。
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