研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
26107514
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安藤 康伸 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00715039)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 二層グラフェン / 電界印加密度汎関数法 / 量子キャパシタンス |
研究実績の概要 |
二層グラフェンを用いたトランジスタは新規電子デバイスとして期待され開発が進められているが、on/off比の大きさに課題が残っていた。この改善につなげるため、長汐(共同研究者)らは量子キャパシタンスの測定を行い、二層グラフェンの電界印加下における状態密度の評価を試みた。その結果、量子キャパシタンスから推定されるバンドギャップ値が理論計算値よりずっと大きく、その詳細は不明だった。本研究では、電界を印加した密度汎関数法計算と、より実験系に近いデバイス構造の元での有限要素法計算とを併用して誘起電荷やポテンシャルの振舞いを調べ、それらを用いて長汐らの実験結果の解釈と、二層グラフェンが有するキャパシタンスの理論的な理解を試みた。 本系のキャパシタンスを求める際、真電荷と分極電荷の区別が微視的には難しいこと等のために、評価方法に任意性が生じてしまう。そこで2つの方法を用いた。第1の方法は、二層の中央を境界としてこの誘起電荷を分割することで各層の誘起電荷量を算出し、これを各層における静電ポテンシャル差で割って求める方法である。第2の方法は静電ポテンシャルから求めた比誘電率に基づいて評価する方法である。 その結果、いずれの方法でもキャパシタンスの値が電界強度に対して単調減少していくこと、また二層グラフェンの比誘電率は電子遮蔽によって層間でも1を超えており、二枚の金属シートではなく、一組の誘電体とするモデルの方が妥当だとわかった。また本モデルをもとに、デバイス構成時に二層グラフェンにかかる電界強度を有限要素法により見積もった。これらの結果から、真電荷ドープのない状況下での二層グラフェンの誘電的性質を理論的に解明することに成功した。 本研究成果は、2014年度日本物理学会秋季大会、日本表面物理学会、日本物理学会年次大会にて発表されており、2015年度に催される国際会議NT15でも発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度計画では真空中の複層グラフェンのキャパシタンスの解析を主要課題として計画されていた。我々はH26年度成果として、研究実績の概要で述べた通り、キャパシタンスの値が電界強度に対して単調減少していくこと、また二層グラフェンの比誘電率は電子遮蔽によって層間でも1を超えており、二枚の金属シートではなく、一組の誘電体とするモデルの方が妥当だということを明らかにでき、真電荷ドープのない状況下での二層グラフェンの誘電的性質を理論的に解明することに成功した。この結果は、二層グラフェンを二枚の完全導体として扱っていた従来の実験解析の視点を大きく変えうるものであり、二層グラフェンを用いた新規トランジスタ開発の進展に対して重要な意義があるものであると言える。 これらのH26年度成果は、基盤との相互作用を取り入れた、より現実に即した計算に十分つながるものであり、27年度研究の順調な進展が期待できる。またH26年度に予定されていたより高度な電界印加手法に基づくキャパシタンスの解析は、すでに計算が済んでおり、真電荷の注入がどのようにキャパシタンスに影響するかの解析を進めている。 以上の事柄から「本研究は概ね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、真電荷のドーピングや基板との相互作用が二層グラフェンの状態密度にどのように影響するかの検討が挙げられる。今回の結果は孤立二層グラフェンに鋸歯状ポテシャルを導入した結果であり、これらの相互作用は取り入れられていない。有効遮蔽媒質法等を用いることで、二層グラフェンに電荷を導入し、その影響による状態密度の変化を検討することで、長汐らの実験で観測されているギャップ内状態の理解を目指す。 また昨年度までは原子層物質が真空中に置かれたモデルに基づく解析を行ってきたが、実際のデバイスでは原子層物質は基盤と接している。この基盤の存在は単に誘電率を変えるだけではなく、誘電特性の複雑な振る舞いを誘起する可能性がある。具体的には、SrRuO3-SrTiO3界面での誘電率低下(dead layer効果)やBaTiO3層の負の誘電率、スピン偏極した電子の誘起などが、原子層デバイスにおいても発現する可能性がある。このことを念頭に、原子層-基盤系におけるキャパシタンスの振る舞いを電界印加密度汎関数法により解析する。まずは日顕流電極上での二層グラフェンのキャパシタンスが、free standing modelと比べてどのように変化するかを確認し、これまで知られていない新規な誘電特性が発現する可能性についても留意しつつ解析を進める。 またグラフェン以外にも、ポストグラフェン材料として期待されているゲルマネンなどにも着目し、基盤上での安定性の議論や、各種基盤上でのキャパシタンスの評価をグラフェン同様に行う。これらの結果を総合的に受け、原子層デバイスの動作特性の最適化に向けた設計指針の導出を目指す。
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