研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
26107524
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川山 巌 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 准教授 (10332264)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 2次元電子材料 / ガスセンサー / 表面・界面 |
研究実績の概要 |
グラフェンをコートした半絶縁性InP(100) (Graphene/InP) からの放射テラヘルツ波をレーザーテラヘルツ放射顕微鏡(LTEM)を用いて測定し、グラフェンの堆積がInPからの放射テラヘルツ波に与える影響を計測した。その結果、大気中、及び真空中でGraphene/InPからの放射テラヘルツ波の波形が時間変化し、その変化が酸素の吸着・離脱によるものであることを明らかにした。 また、UV光を照射することにより、Graphene/InPからの放射テラヘルツ波の波形が劇的に変化することを見いだした。さらに、基板がInAsやp型もしくはn型のInP基板を用いた場合は、大きなテラヘルツ波の波形変化は観測されなかった。これらの実験結果を基に、酸素分子の吸着によりGraphene/InP基板界面で双極子が形成され、InP表面のポテンシャルが増加することによりテラヘルツ波の波形が変化すると言うモデルを提案した。 さらに、グラフェンと同様に二硫化タングステン(WS2)を用いて同様の実験を行った結果、グラフェンの場合と同じく、大気中では酸素吸着によるテラヘルツ波形の変化が観測されたが、グラフェンとは酸素の吸着・離脱の条件が異なることを見いだした。これらの結果は、このような2次元ナノ材料と半絶縁性InP基板の接合により、ナノ材料表面の酸素の吸着・離脱(酸化・還元)反応の計測が可能であることを示しており、2次元ナノ材料の新規な評価法としての展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で取り組む課題は以下の4項目である。1)InP、GaAs、InAs 基板(様々な方位・ドーピング)上にグラフェン薄膜を積層し、発生したテラヘルツ波の分光およびイメージングを行う。2)ガス吸着・反応による放射テラヘルツ波の変化を観測し、ガスセンサー応用の可能性を探究する。3)表面グラフェンに電界を印加することで、フェルミ準位などポテンシャル制御によるテラヘルツ放射特性の観測により、原子層薄膜と半導体接合界面の電荷ダイナミクスを調べる。4)グラフェン以外の2次元原子層とのヘテロ界面の光キャリアダイナミクスについても同様の手法で計測を行う。 項目1)に関しては、26年度においてほぼ完了し、InPで我々が提案したモデルですべての現象が説明可能であることが明らかとなった。項目2)に関しては、同じグラフェンでもCVD法で作成したものと、液層剥離法で作成したもので、特性が異なるという結果が得られた。これは、グラフェンの形状や欠陥密度によりガス分子の吸着エネルギーが異なるためと考えている。項目3)に関しては、26年度は項目1と2に集中したためあまり進んでいないが、新学術領域の他のメンバーとの交流や講習会で、電極作製法に関する知見を得ている。27年度は実際にデバイス構造を作製し、テラヘルツ放射特性の観測を試みる。項目4)は27年度から行う予定であったが、26年度に先行的な研究を開始している。27年度はWS2に関して本格的な研究を行い、グラフェンを用いた結果と比較することにより、2次元電子層特有の現象を抽出する。 以上、項目3)以外は計画通りもしくは計画以上に進展しており、Scientific Reports誌に成果が掲載されるなど、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、項目1)~4)のそれぞれの項目に関して以下の方針で研究を行う。 項目1)については、n型およびp型InP、GaAs、InAsなどからのテラヘルツ波放射について検証するなど、基礎的なデータの取得はほぼ終了した。今年度は項目2)~4)に注力する。 項目2)前年度に、グラフェンの作成法により、吸着・離脱ダイナミクスが変化することが分かった。グラフェンなど2次元材料とガス分子の吸着エネルギーを詳細に検証するために、ガス圧や温度を変化させてより定量的なデータを取得する。これにより、ガスセンサーとしてのスペックを検証できると考えている。 項目3)では、グラフェン表面に電界を印加し、フェムト秒レーザー照射により発生するテラヘルツ波の変化を観測する。この際、グラフェンのフェルミ準位シフトにバンド内遷移確率の変化および半導体基板表面のポテンシャル変化に起因するバンド構造の変化という両面から放射特性の変化を検証し、テラヘルツ波変調素子としての機能開拓を行う。 項目4)MoS2やMoS2, h-BNなどをグラフェンと同様に半導体基板上に積層し、テラヘルツ波の放射特性から界面における光励起キャリアのダイナミクスおよびテラヘルツ波変調のメカニズムを探求する。
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