研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
26107526
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
草部 浩一 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10262164)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | グラフェン / 量子デバイス / 量子ダイナミクス / 量子エンタングルメント / 単一光子観測 |
研究実績の概要 |
水素化グラフェン構造そのものを量子演算器(量子回路)として動作させる方法を理論的に提供する目的で、次の研究を実施して成果を得た。平成26年度はまず、量子スピン埋め込み方法を具体的に示すため、我々も参加した東京工業大学での3水素化原子欠損構造同定の成果に立脚することにした。この構造では、明瞭なゼロモード発生が認められているからである。ゼロモードとは、グラフェン構造中の幾何学的特徴から発生する非結合性軌道のうちで、ディラック点直上に発生する空間局在性をもつ電子軌道のことを指している。この構造同定した水素化原子欠損構造における強相関効果の出現を、まず軌道上クーロン相関エネルギー(ハバード相互作用Uに相当する)を決定することで示した。ゼロモードが指数関数的局在性を与えることから、Uの大きさは遮蔽効果を考慮してなお1eVに達する。そこで、化学ポテンシャルがディラック点付近においてeVオーダーで変化する範囲であれば、局在性量子スピンの発生を理論同定することが出来た。この量子スピン状態に対する近藤模型を決定するために、超過程計算法に基づき超交換相互作用型の高次交換散乱項の直接評価を行った。その結果は、ディラック点近傍での準粒子交換散乱過程に対して0.1eV程度に達しうる数値を与えた。そこで、この系の有効模型を導出し、ディラック点近傍で電子型準粒子・正孔型準粒子が同等数発生しながら遮蔽に参加する有効軌道を形成するという物理描像を得た。このゼロギャップ半導体特有の擬ギャップ近藤効果を予言するものである。そこで、量子モンテカルロ法計算を実施して、局在軌道上の電子数の相互作用パラメタ依存性、化学ポテンシャル依存性から、特異な強相関効果の発生を結論した。併せて、グラフェン局所構造の電子格子相互作用評価を、高速計算手法を用いて進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グラフェンと水素の反応は、量子スピンを発生する構造を示し、条件によっては反応可逆性もあるなど、興味深い。我々は、原子欠損の有無により変化する原子状水素の吸着構造と電子移動の同定、各種ゼロモードの発生などを見出してきた。これらの結果は、実験班との連携によって支えられてきた。そこで、合成班高井グループとの連携を推進し、原子層科学理論公募班研究打ち合わせ会議を、連携研究者福岡工大丸山准教授、法政大高井准教授、東工大榎教授の参加も得て領域会議に併設する形で、年2回開催した。その結果、実績欄掲載の共同研究内容に加えて、水素吸着・脱離表面化学反応活性化方法と、ナノダイヤモンド活用量子スピン形成法に関する新たな重要課題が浮かび上がった。そこで、電場励起化学反応活性化による物質移動と量子デバイスへの応用として、水素化グラフェン表面における電場励起脱離過程の理論計算を開始し、電子供給による脱離過程活性障壁の明瞭な減少を見出した。短期間で、平成27年6月開催予定のNT15国際会議での発表を目指すに至った。また、グラフェンとともに重要な量子スピン供給源であるナノダイヤモンドにおいて、表面形成量子スピンが実験的に観測されている。この量子スピン発生メカニズムの解明を目指して、構造同定シミュレーションを開始し、ナノ炭素クラスター構造における特異な表面炭素構造の検討も開始した。また、領域代表東北大斎藤教授、京大依光教授との議論を出発点にして、窒化炭素骨格に原子欠損グラフェン類似構造をもつ窒素含有芳香族系高分子群の構造と電子状態解析を行った。その結果、局所量子スピン形成がある構造など系統的な電子状態特性の発生があることが分かった。このように、領域内連係の推進から、本理論班の研究内容は当初計画を越えて展開している。
|
今後の研究の推進方策 |
バイアス誘起キャリア制御によりゼロモード上局在スピンの交換遮蔽を変調し、局在スピン集団の量子ダイナミクスと量子演算の制御が可能であることを示す。核スピンを活用して光子との結合系を構成し、局所一重項形成によるゼロモードとディラック電子系のエンタングルメントを発生させ、スピン情報をディラック電子系にまで移す。この量子ダイナミクスを、環境場との相互作用強度決定を評価して決定する。SiO2基板効果も評価し、現実的なデバイスでの課題も評価する。 セロモード・エッジ状態結合系を用いて、測定系を含む単一光子観測デバイス構造の設計を行う。スピン・ブロッケイド状態と、ゼロモードとエッジ状態間の量子力学的結合が超交換スピン散乱過程から発生し、カイラル制御された状態ベクトルへの射影測定が与えられる。多配置参照密度汎関数法に基づき、結合強度を定量評価する。キャリア濃度依存性の検討、多スピン系における散乱過程解析、近藤遮蔽によるメモリ初期化、伝導度計測における測定誤差とノイズ解析、量子ダイナミクスとしての演算過程の設計、を実施する。量子スピン数と空間配置の制御により多量子ビット化したモデルを用いて、デコヒーレンス問題、情報エントロピーのダイナミクス決定を視野に入れて研究を実施する。 法政大高井らによるグラフェンデバイス上の化学反応過程と電気伝導度間の相関に関連して、化学吸着分子のバイアス誘起脱離現象を理論的に突き止める。電気信号を中性状態にある分子脱離に繋ぐ方法を提示して、化学反応を通した量子情報処理を用いるデバイス設計を行う。 ナノダイヤモンド表面上の量子スピンが東工大榎らにより実験的に同定された。この量子スピンの起源を物質構造同定と併せて実施し、特性の理論評価を進める。ダイヤモンドNV中心で困難な、外部場制御性、多様なデバイス系との複合化を実現できる可能性がある。
|