グラフェンは高い電荷キャリア易動度を有することから、高速電子素子への応用が期待されている。しかし、バンドギャップを有さないために、スイッチング素子応用に適さないという大きな欠点を有する。これに対し、極細のグラフェン(グラフェンナノリボン)は量子閉じ込め効果により有限のバンドギャップを有するため、スイッチング素子応用が期待されている。そのため、これまでに数多くのナノリボン合成手法が報告されてきた。
本研究は、グラフェンナノリボンを室温・大気中にて合成可能な新規手法の開発と、得られたナノリボンのトランジスタ応用を目指すものである。本手法は、研究代表者がこれまでに見出した新規現象「ゲート制御型端選択的グラフェン光酸化」を用いる。この現象は、動作中(即ちゲート電圧・ドレイン電圧を印加中)のグラフェン電界効果トランジスタに対し紫外光照射を行うと、グラフェンの端から中央部へと酸化が進行していくというものである。酸化グラフェンは絶縁体であるため、酸化の進行を全酸化の直前で停止させれば、グラフェンナノリボンを残すことができると期待される。本現象は室温・大気中という穏和な条件下で発現するため、熱に弱い柔軟性基板上でもナノリボン合成が可能になると期待される。
まず、ゲート制御型端選択的グラフェン光酸化における種々の実験パラメータの影響を調査し、当該現象の概形を理解した。これにより再現性高く当該現象が発現する実験条件(負ゲート、有限のドレイン電圧、高湿環境、長チャネル、長めの紫外光照射前待機時間など)に設定することで、本手法によるグラフェンナノリボン合成を目指した。その結果、トランジスタの室温での電流オンオフ比を3から50程度へと向上させることに成功した。これはグラフェンナノリボン化によるバンドギャップ導入の成功を示唆するものである。
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