研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
26107534
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中西 毅 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (00301771)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グラフェン / 有効質量理論 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
本研究では、グラフェン原子層境界の問題を中心にグラフェンの電気伝導、電子状態など量子物性を理論的に研究し、エッジレスグラフェンリボンの電子状態の解明などを、領域内の実験、理論グループと連携しながら推進する。 今年度は特に扁平したカーボンナノチューブの電子状態を有効質量近似の方法により計算した。肘掛け椅子とジグザグ型ナノチューブが扁平すると電子状態が大きく変化するが、カイラルナノチューブが扁平した場合、電子状態がほとんど変わらないことを示した。面間の相互作用は近接したカーボン原子間の飛び移り積分で与えられるが、距離と共に指数関数的に減衰する。有効質量近似で面間の相互作用は有効ポテンシャルとして表されるが、そのフーリエ変換の最大項だけ考えても、良い近似となっている事を示した。有効ポテンシャルの谷間成分はジグザグ型のナノチューブで非常に大きくカイラル角と共にすぐに減衰する。一方谷内成分は肘掛椅子型付近で大きく比較的ゆっくり減衰するが、カイラルナノチューブでは両者とも無視できるほど小さい。 また、層状物質層間引力の光増強を第一原理計算によりシミュレーションした。グラフェンに代表される層状物質において光学励起による層間距離の変調を探索した。従来、高強度レーザー照射により凝集系の結合破壊や層状構造の解離が起こることはよく知られている。一方、電子励起を引き起こす周波数に近い周波数の光を定常的に照射し、原子核周りの電子雲の振動を誘起することにより、希ガス原子間の動的双極子引力を増強できることを示した。さらに、光学フォノンモードを励起する共鳴波数のレーザーを照射した場合の2層ヘキサゴナル窒化ホウ素層間距離が縮む様子をシミュレーションし、元の層間距離より10%以上もの収縮を予測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で計画した研究のうち、エッジレスグラフェンリボンの電子状態について有効質量近似の方法で調べ、以下を明らかにした。肘掛け椅子型およびジグザグ型ナノチューブが扁平した場合、扁平した領域の構造によりエネルギー分散は大きく変化する。一方、カイラルナノチューブでは層間相互作用の効果は非常に小さくエネルギー分散は元のナノチューブとほとんど変わらない。 大面積グラフェンの高品質化に関する研究については、A03 班(応用班)長谷川グループと共同でレーザーを用いた品質改善に関する議論を行っている。その中で、高強度レーザー照射による層状物質層間引力の光増強を第一原理計算によりシミュレーションし、光学フォノンを誘起することで、各層に動的双極子を発生し、層間引力増強にいたる可能性を示した。 以上のようにおおむね当初計画通り研究が進んでいる。これらの成果は論文、口頭により発表している。
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今後の研究の推進方策 |
扁平したカーボンナノチューブは、閉じた端を持つ2層グラフェンと見なすこともできる。そこでは層間相互作用がある2層グラフェンの中央部分と、曲率がある単層グラフェンの端部分を境界条件で接続する。これまで肘掛け椅子型およびジグザグ型ナノチューブが扁平した場合エネルギーバンド構造の大きな変化を示したが、閉じた端を持つ2層グラフェンの観点から、この結果を理解する。 また、グラフェンナノリボンの光物性の再検討を行う。従来の理論的研究では光吸収スペクトルと言った静的な性質が主であったが、光を入射した際の光電場のグラフェンナノリボン付近での動的変調などを第一原理シミュレーションにより調べる。
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