蛍光寿命画像の測定には時間がかかることが多く,光退色によって蛍光強度が減少し信号雑音比が低下することが問題であった.今回,光退色に強い色素として近年報告されたローダミン色素誘導体を用いて,蛍光寿命を用いた媒質のpH検出を検討した.蛍光強度はpHの増加に対して減少し,蛍光強度の強いプロトン付加体と蛍光強度の弱い脱プロトン体の酸塩基平衡によって説明されている.470 nmを励起光とし,60 psの装置関数で蛍光減衰曲線のpH依存性を測定した.蛍光減衰曲線はpHによって大きく変化し,ピコ秒の蛍光寿命を持つ成分とナノ秒の蛍光寿命を持つ成分の2成分の割合がpHによって変化した.酸性領域ではナノ秒の蛍光寿命成分が,中性からアルカリ性領域ではピコ秒の蛍光寿命成分が主成分となった.蛍光スペクトルとの比較から,ナノ秒の蛍光寿命成分がプロトン付加体,ピコ秒の蛍光寿命成分が脱プロトン体に帰属できる.蛍光減衰曲線を一次から三次の指数関数を用いて再現し,平均蛍光寿命をpHに対してプロットした.pHが5から7において,平均蛍光寿命の顕著な変化が観測された.平均蛍光寿命のpH依存性は検量線となり,蛍光寿命を用いて緩衝溶液中のpHが求められることがわかった.次にローダミン色素誘導体で染色されたHeLa細胞の蛍光寿命イメージング測定を行った.画像の各点において時間相関光子計数法を用いて蛍光減衰曲線を測定し,多成分の指数関数によって減衰曲線を解析して蛍光寿命の画像化を行っている.HeLa細胞中での蛍光減衰曲線は2成分で再現することができ,緩衝溶液中とは異なる値であった.
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