マラリアに感染した赤血球は膜表面に接着タンパクを発現する.この分子反応の発現によりマラリア感染赤血球は微小血管内に接着し,周囲の赤血球を巻き込んだ組織レベルの微小循環障害を引き起こす. 細胞の力学と生化学を連立する計算力学モデルを開発し,接着分子の生化学特性とマラリア感染赤血球挙動の関係に対する大規模パラメトリック計算を実施した.まず単体のマラリア感染赤血球挙動の計算を実施し,次に,多数の正常赤血球と相互作用する微小循環内の挙動を計算することで総合的に検討を行った.血管内皮細胞上にTSPやCD36がレセプタとして存在している場合,マラリア感染赤血球は定常接着をすると報告されているが,このような定常接着は離脱頻度が1/s以下の場合に生じることを明らかにした.またレセプタとしてICAM-1が存在する場合,マラリア感染赤血球は回転運動をすることが知られているが,ICAM-1は結合に作用する力にほとんど依存しない結合特性を有することを明らかにした. また,開発した計算力学モデルをより一般的なカプセル懸濁液のレオロジー解析や白血球・腫瘍細胞の流動・接着の問題に応用した.マラリアと同様,白血球の接着は生体防御において,腫瘍細胞の接着はがん転移において重要な過程であり,古くから血管壁面の「Rolling」や定常接着が調べられてきた.我々はセレクチンを発現した毛細血管内の細胞挙動を計算し,毛細血管径が細胞径より小さくなると,細胞は管の中央を移動する「Bullet」挙動を示すことを明らかにした.このときリガンド‐レセプタ結合によって細胞の移動速度は著しく減少し,レセプタ密度が十分低い領域においても定常接着とみなせるような速度となることを示した.
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