研究領域 | ナノメディシン分子科学 |
研究課題/領域番号 |
26107705
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
合田 達郎 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (20588347)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞 / 機能性ナノ材料 / 半導体デバイス / 細胞毒性 / ナノメディシン |
研究実績の概要 |
細胞膜を模倣したバイオミメティックス界面を構築し、炎症性タンパク質であるCRP(C-reactive protein)との結合反応キネティックスを解析した。PC基を有するポリマー(PMBN)を用いてバイオミメティックス界面を構築した。表面プラズモン共鳴(SPR)センサー用の金基板上に共有結合を介してPMBNを導入することにより、安定したナノ界面が形成でき、繰り返し使用可能なラベルフリー型センサーを提供できた。PC基の表面密度は細胞膜リン脂質の表面密度とほほ等しい値であったことから、リン脂質極性基をレセプターとするCRPとの相互作用を解析する界面としてふさわしいと考えられる。結合に関与するカルシウムイオンや炎症反応に関与するpHを微小環境変化のパラメータとしてCRPとPC表面との相互作用を解析した。 微小流路とISFET (Ion-Sensitive Field-Effect Transistor) からなる半導体型pHセンサーのゲート部に細胞を直接播種し、ゲート電極‐細胞間のナノ空間における一時的なpH変化を細胞膜の半透膜としてのバリア性の指標とする、新しい細胞膜障害性評価法を開発した。細胞非侵襲的にNH4Cl水溶液を作用させ、NH3選択的な細胞膜透過によって、溶液を交換した瞬間にゲート電極‐細胞間のナノ空間で過渡的なpH変化が起こることを確認した。膜障害性を有する様々な化合物を細胞に作用させると、NH3のみならずNH4+とH+も透過するようになり、平衡反応の乱れが小さくなることで一時的なpH変化は減少することが明らかとなった。ピークの減少率をパラメータとして、従来法である赤血球溶血試験結果との比較を行ったところ、高い相関係数(r = 0.91)が得られ、ISFET‐細胞によるリアルタイム・非標識に膜障害性を評価できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は以下に示す項目の通りであり、これらはおおむね達成された。 1.細胞膜を模倣したバイオミメティックス界面を構築し、炎症性タンパク質であるCRP(C-reactive protein)との結合反応キネティックスを解析する。CRPは細胞膜を構成するリン脂質の極性基であるホスホリルコリン基(PC)とカルシウムイオンを介して相互作用することが知られていることから、PC基を有するポリマー(PMBN)を用いてバイオミメティックス界面を構築する。表面プラズモン共鳴(SPR)センサー用の金基板上に共有結合を介してPMBNを導入することにより、安定したナノ界面を形成する。2.CRPと高い親和性を有するバイオミメティックス界面を用いて、血清中のCRP濃度の定量センシングをおこない、炎症マーカーの簡易診断デバイスの作製を検討する。 3.ナノ材料が細胞膜を透過する際に細胞外に受動拡散的に放出される水素イオンを高感度(ΔpH = 0.01)・高時間分解能(Δt = 10 ms)・リアルタイム・非侵襲的に測定し、細胞膜に形成される一時的なナノポアのキネティックスを定量的に評価する。4.ISFETを組み込んだマイクロ流路デバイスチップを作製し、培養株化細胞を用いて細胞膜透過性高分子やナノ材料を添加した際の細胞膜近傍のpH変化をモニターする。5.本システムで得られた結果と、既存の細胞膜障害性の評価方法である乳酸脱水化酵素(LDH)活性の測定や、カルセインなどの蛍光分子の細胞外漏出を蛍光顕微鏡で測定した結果、あるいは炎症性サイトカイン量、活性酸素種(ROS)活性との比較をおこない、本システムの優位性を評価する。
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今後の研究の推進方策 |
1.アポトーシスによって細胞膜上のPC密度が変化する環境を再現する機能性界面を作成し、CRPがアポトーシス細胞に結合する分子メカニズムを明らかにする。PC密度の変化がCRP結合に及ぼす影響はいまだ詳細に解明されておらず、非常に興味深い点である。また、アルキル鎖が二本でかつPC基を有するチオール新規分子(PC2-SH)を合成する予定であり、これらの分子を用いて作製した表面密度の異なるPC界面を作成し、CRPの結合反応キネティックスにおける表面PC密度の影響を詳細に検討する。この際、異なる構成分子で作成された人工リン脂質膜がラフトの様な相分離構造を形成するか否か、AFMなどを用いてナノ界面の同定を注意深くおこなう。つまり、表面PCの高密度化が細胞膜局所的に起こる現象か否かを判断する。 2.イオンをトレーサーとしてナノ材料と細胞膜との相互作用を重点的に解析する。また、得られたデータの解釈法・イオン輸送に関する理論モデルを構築し、細胞膜のバリア性の乱れを定量的に記述する。本実験では、低侵襲に細胞膜近傍のpHを一時的に操作するために、生理学分野で頻繁に用いられているアンモニア‐塩化アンモニウム平衡反応を利用する。これは、細胞膜がアンモニアのみを透過させアンモニウムイオンをブロックする半透膜の性質を利用し、細胞膜を隔てた一時的なpHの勾配を形成させるというものである。この系には、緩衝液とプロトンの平衡反応や、ナノポアを介したプロトンの細胞膜透過、細胞膜トランスポータによるプロトン輸送などが関与しており、分子パラメータを抽出するに当たっては適切な理論モデルを構築することが重要である。モデル構築と理論解析に関しては現在、東京大学のグループらとの共同研究を検討中であり、当該期間に共同研究として進めていく予定である。
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