本研究では,昨年度に引き続き氷表面上での水素分子の吸着状態と拡散特性を詳細に調査した.ファン・デル・ワールス力や水素結合の影響を正確に取り扱うため,非局所相関項を用いた密度汎関数理論に基づく第一原理電子状態計算を用いた.本研究では表面電場の影響を考慮するため,常誘電性結晶氷Ihと強誘電性結晶氷XIを取り扱った.今年度は様々な面配向成分を含むと考えられるアモルファス表面に関する基礎的知見を得るため,氷表面の面方位を変化させ研究を行った.具体的には,ベーサル面に加えプリズム面を取り扱った.これらの表面上での吸着状態と拡散障壁をポテンシャルエネルギー表面の構築とナッジド・エラスティックバンド法を用いて求めた.その結果,氷XIプリズム表面上で最も吸着エネルギーが大きくなることを明らかにした.また,ポテンシャル異方性と拡散障壁に関しても氷XIプリズム表面上で最も大きくなることを明らかにした.一方,拡散障壁が最も小さいのは氷Ihプリズム表面上であった.さらに,氷表面上での水素分子のオルソ・パラ転換速度を決定していると考えられる水素原子核位置における電場勾配を求めた.これらに加えて,太陽系に比較的多く存在する金属元素である鉄やアルミニウム表面などにおける水素の吸着状態と拡散特性も明らかにした. これらの成果を2件の国際会議(psi-k 2015など)と3件の学会発表(第56回真空に関する連合講演会など)にて発表した.
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