超音速ジェット法により真空中に生成した水クラスター(会合体)は、星間空間に存在する氷のよいモデルである。本新学術領域研究では、水クラスター表面で起こる光反応機構の微視的理解を目的として、真空紫外光イオン化検出振動分光法応用に基づく研究手法を開拓した。真空紫外光イオン化に基づくこの方法は、あらゆる分子やクラスターに応用可能であり、反応物と全生成物の同定に加え、それらの質量、構造、電子状態の解析ができる。同研究手法を、二原子分子の一酸化窒素、アルカンのペンタン、ホルムアミドの小サイズ水和クラスターの光反応に応用した。その結果、ペンタンの水和クラスターの真空紫外光照射により、ペンタンがイオン化され、ペンタンのラジカル正イオンから水クラスターにプロトン移動が起こることを明らかにした。同様にホルムアミドの水和クラスターにおいても、イオン化されたホルムアミドのCH結合のプロトンが水クラスターに移動することが分かった。これらの結果は、水クラスターの存在によって、真空紫外光照射された分子のプロトン移動反応が誘起され、プロトンを失った中性のラジカルが生成することを示す。通常そのようなラジカルは、反応性が高いため、他の分子と接近すると反応を起こすことが予想される。本課題の結果は、水クラスターに付着した分子に真空紫外光が照射される過程や、ラジカル正イオンが水クラスターと相互作用する際、プロトンを失った中性ラジカルが生成することを示す。このように本研究課題により、星間分子の進化過程における氷微粒子の作用の一つが明らかになったと考えられる。
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