研究領域 | 宇宙における分子進化:星間雲から原始惑星系へ |
研究課題/領域番号 |
26108506
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金森 英人 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00204545)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 電波天文学 / 星間分子 / 直線炭素鎖分子 / ポリアセチレン分子 / ポリイン分子 / サブミリ波分光 |
研究実績の概要 |
本研究は星間空間において、無極性直線炭素鎖分子であるポリイン:H-[C≡C]n-H, (n=2~7) を電波天文で検出するために、サブミリ波帯に予想されるポリインの最低変角振動モードの吸収スペクトルを実験室で検出・解析し、天文探査観測に最適な周波数リストを作成し、ALMAでの観測プロポーザルとすることを目的とする。そのために以下の理論及び実験的研究を行った。 理論的アプローチとして、ポリイン(n=2~7)の最低変角振動モードの周波数と遷移強度を予想するために、第一原理計算、および密度汎関数法を用いて、非調和性を考慮した振動解析を行った。その結果、遷移強度は分子が長く(nが大きく)なるにしたがって、急速に減少する傾向があることが分かった。 実験的アプローチとしては、実験室におけるポリイン分光検出実験のために、ヘキサンを溶媒とした炭素微粒子をYAGレーザーでアブレーションする光化学反応を用い、UV吸収分光を用いて生成分子種の同定し、n=5,6,7のポリイン生成条件の最適化を行い、大量生成の手順を確立した。 この溶液サンプルを用いてポリインの超音速分子ジェットビームの発生を試みたが、ポリインとヘキサンの蒸気圧の違いが大きすぎることから、ヘキサンだけが先に気化してしまい、取り残されたポリインが容器内で重合してしまうことが分かった。この問題を解決するために、まず、各ポリインの飽和蒸気圧を見積もるための実験を行ない、ポリインより低い蒸気圧特性を有し、かつ、ポリインのUVおよびMW分光測定を妨害しないものの中から、流動パラフィンを新たな溶媒として選択した。その結果、ポリインを重合することなく気化させる方法が確立できた。 一方、サブミリ波帯の分光光源として、現有のミリ波帯のGunn発振器を基本波とするマルチプライヤーシステムを当該年度予算で導入し、分光測定の準備を整えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的課題については、おおむね当初の予定通り、各ポリイン分子ごとの振動遷移に関する量子化学計算の結果が得られた。しかしながら、非調和性が非常に強い系であることから、定量的に信頼できる遷移周波数と遷移強度を得るためには、さらなる理論的考察が必要と考えられる。 実験的課題については、超音速ジェット分子線とする過程で発生した、重合によるポリイン分子の消失という想定外の問題を、各ポリインごとの飽和蒸気圧を実験によって見積もり、それより低い飽和蒸気圧を持つ溶媒に変更しすることによって、解決の目途をたてた。また、ポリイン分子の大量合成法を確立し、分光検出測定のためのサブミリ波光源の導入と最適化調整も完了した。 以上のことから、ポリインの超音速ジェット分子線のサブミリ波分光測定の準備が整った。
|
今後の研究の推進方策 |
理論的アプローチとして、計算精度を高めて、予想振動周波数及び遷移強度の信頼度をあげることが課題である。現時点では、振動SCF計算に用いる密度汎関数の取り扱いに敏感で、計算結果が十分収束しているとは言えない状況である。例えば現状での振動周波数の予想値は30GHz程度もばらついているが、これは600GHz帯のサブミリ波測定においては十分とはいえない。ポリインの折れ曲がり振動モードは非調和性が非常に強い系であることから、定量的に信頼できる遷移周波数と遷移強度を得るための、non-rigid benderモデルに基づく解析をさらに慎重に進めていく。また、さらに長鎖のポリイン(n=8以上) の理論計算をおこない、一連のポリインの分子安定性について総括的な知見を得、宇宙の物質進化におけるポリインの重要性についてあらためて考察する。 実験的アプローチとしては、実験室サブミリ波分光測定の高感度化のために、サブミリ波領域の吸収分光の感度を向上させる手段として、以前、我々が製作したサブミリ波共振器を導入する。これは金属蒸着した無水石英製の凹面鏡の中心部にリソグラフの手法を用いてグリッド構造を形成したもので、高い共振パラメータQと少ない結合損失を両立させることができる。これと分子線発生装置と組み合わせることで、感度を現状より1桁アップさせることをめざす。 以上、理論および実験的成果に基づき、ポリイン (n=5,6,7,8) について温度ごとの振動・回転スペクトルのスペクトル線アトラスを作成し、ALMAの#9 (610-710 GHz)および #10バンド (760-950 GHz)領域での天体探査観測に最適な観測プロポーザルとする。
|