研究領域 | 宇宙における分子進化:星間雲から原始惑星系へ |
研究課題/領域番号 |
26108508
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉本 敏樹 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00630782)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 強誘電氷 / アモルファス氷 / 和周波発生振動分光 / 赤外振動分光 / 宇宙分子進化 / アイスルール |
研究実績の概要 |
構造が制御されたモデル基板としてPt(111),及び分子雲環境下で最も始原的なCO分子が共存している状況を模したCO/Pt(111)を用いた.CO/Pt(111)において,CO分子はc(4×2)の超構造で事前吸着させている.本年度は,蒸着法によって成長させた結晶氷,及びアモルファス氷薄膜の強誘電性の発現の有無をを調べた.その結果,Pt(111)上のみならず,CO/Pt(111)上においてもアモルファス氷薄膜が強誘電的に成長することが明らかになった。CO/Pt(111)上で氷が強誘電性を示すという結果は,分子雲や原子惑星系における氷が強誘電性を示している可能性を強く示唆する非常に重要な結果である. また,局所振動子を従来の金ミラーからZカット水晶(厚さ0.1 mm)に変更することでヘテロダイン検出和周波発生振動分光法(HD-SFG)の感度を一桁改善することに成功した.これにより,これまでは困難であった1分子層以下の微少な分子数の氷薄膜に対しても正味のプロトン配向秩序を観測することができるようになった。このHD-SFGスペクトルの氷膜厚依存性から,Pt(111)表面上での強誘電性発現には,氷/Pt(111)界面において発現する水分子の回転対称性の破れが本質的であることが明らかにした.回転対称性が破れた第一層吸着水の分子配向は,長距離的なの双極子場ではなく短距離的なアイスルールとその部分的な破れによって結晶氷薄膜全体に強誘電性を誘起しているという新しいメカニズムをを提唱した(論文準備中).このメカニズムを拡張することで,アモルファス氷の強誘電性も説明できると考えている.また,まだ予備実験の段階であるが,O/Pt(111)においては,結晶氷もアモルファス氷も強誘電性を示さない可能性が大きいことを突き止めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
局所振動子を従来の金ミラーからZカット水晶(厚さ0.1 mm)に変更することでヘテロダイン検出和周波発生振動分光法(HD-SFG)の感度が一桁改善されたことにより,従来困難とされていた1分子層以下の微少な分子数の氷薄膜に対しても正味のプロトン配向秩序を直接観察することに成功した.また,強誘電氷薄膜の成長には,表面第一層水分子の回転対称性の破れが本質的であることが明らかになった.多層氷吸着時の強誘電性の伝播メカニズムとして,長距離的な電場ではなく短距離的なアイスルールが支配していることを明らかにすることができた.宇宙環境により近いCO/Pt(111)でも結晶氷・アモルファス氷が強誘電性を示すという実験結果は,分子雲・原子惑星系において強誘電アモルファス氷が存在しうることを示す非常に重要な結果であると考える.また,O/Pt(111)においては,結晶氷もアモルファス氷も強誘電性を示さない可能性が大きいことを突き止めた.解離酸素の有無でPt(111)の電子状態がどのように変わるのか,その上に吸着した水分子は回転対称性が破れていないのかを明らかにすることが,氷の強誘電性発現機構の全容解明の大きな指針であることを確信した.以上のように,本研究では実験技術を着実に進歩させ,かつ研究開始当初の想像を大きく超えた知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の知見を踏まえ,まずCO/Pt(111), O/Pt(111)上のアモルファス氷に対して紫外光電子分光,およびHD-SFGを行い,氷吸着に伴う電子状態の変化,および水分子の回転対称性の破れを検証する.次いで,シリケート系のモデル鉱物基板上のアモルファス氷薄膜の強誘電性を明らかにする。基板温度や紫外光照射量をパラメータとした系統的な実験により分子雲環境下のアモルファス氷の強誘電性を予測し,モデル化学反応を用いて氷の強誘電性と触媒機能との相関を調べる。
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