研究実績の概要 |
本研究の目的は、原始惑星系円盤のH2O氷の分布を高解像度近赤外多色撮像観測から求め、究極的には惑星系形成において重要なH2Oスノーラインの直接空間分解検出を達成することにある。この観測手法は、我々のグループが世界に先駆けて提案し(Inoue, Honda, et al. 2008, PASJ)、実際に有効であることを観測的に実証した(Honda, Inoue, et al. 2009, ApJ)。本研究はこの手法を様々な原始惑星系円盤に適用し、統計的な議論を進める一歩を築くことであった。H26年度はGemini南望遠鏡に搭載した近赤外コロナグラフ撮像装置NICIを用いた若い中質量星HD100546原始惑星系円盤の観測データの解析を完了し、モデル予想(Oka et al. 2012, ApJ)との比較を行い、円盤表層における氷分布において重要なプロセスと考えられている光脱離効果の有無の検証を行った。その結果、光脱離プロセスが有効であるという兆候が見られた。しかしながら、PSF差し引きによる系統誤差要因が大きく、最終的な結論を見出すには系統誤差要因を減らす観測手法が望まれることが分かった。これには、新規観測機能(Lバンドにおける偏光差分撮像ADIや偏光差分分光)の開発が必要と考えられる(Honda et al. 2016, ApJ)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度はGemini南望遠鏡に搭載した近赤外コロナグラフ撮像装置NICIを用いた中質量の若い星であるHD100546原始惑星系円盤の K(2.2um), H2Oice(3.1um), L’(3.8um)の多色近赤外高解像度撮像データの解析を行い、予想通り水氷吸収featureを検出し、円盤表層に水氷が存在する観測結果を得た。また、円盤表層における氷分布において重要なプロセスと考えられている光脱離効果を考慮したモデル(Oka et al. 2012)との比較を行った。この部分で理論モデル担当者の就職等に伴う遅延があり、論文化がH27年度にずれ込んだ。比較の結果、光脱離が有効に働いているモデルと観測結果がより一致している兆候を得た(Honda et al. 2016, ApJ)。ただし、観測データの系統誤差要因が大きく、最終的な結論には至っていない。今後はこの系統誤差要因を低減する必要がある。 また、スノーラインへの観測的制限であるが、我々のHD100546のデータから、中心星近傍0.3”近く(実距離にして約30AU)まで迫ることができ、これより遠方において円盤表層に水氷が存在することを確認できたが、水氷が昇華して消失するスノーラインの直接検出には至らなかった。モデル計算との比較から、この星の光度などを考慮すると、HD100546のスノーラインは約20AU(0.2”)程度近傍まで迫る必要があり、inner working angle (IWA)の改善が必要であることが課題として明らかとなった。
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