平成27年度に実施した研究実績の概要は以下とおりである。 1. 26年度に製作したC60蒸着膜よりも膜厚の小さいC60蒸着膜をアルミ基板上に作成した。水素付加反応に寄与するC60の膜全体に対する割合が小さいと予想され、26年度に作成した蒸着膜厚ではノイズや揺らぎ等により水素化反応による変化を確認できないと思われたためである。作成したC60蒸着基板を、水素原子照射部を備えた赤外吸収分光測定装置のクライオスタットに取り付け、水素原子照射部で生成した水素原子を低温下でのC60蒸着膜へ照射実験した。しかし、C60への水素付加反応の確認に至るような赤外吸収スペクトルの変化は確認できなかった。 2.水素付加反応に寄与するC60の膜全体に対する割合が小さいことが、観測を難しくしているのではないかと思われたため、他の研究に使用されている少し簡便な赤外吸収分光測定装置を用いて、真空内で水素原子とC60をアルミ基板に同時に照射することで水素付加反応を起きやすくして、水素付加反応の信号であるCH伸縮振動に相当するスペクトルバンドの観測を試みた。その結果、蒸着基板温度が室温付近でも10K付近でもCH伸縮振動に相当するスペクトルバンドの増加を観測し、水素付加反応が室温付近でも10K付近の温度でも起きることが確かめられた。 3.2.の結果を受けて、同じ真空容器内でC60蒸着基板を作成したあとに水素原子を照射した。その結果、C60の赤外活性バンドの小さな変化とCH伸縮振動に相当するバンドの増加を蒸着基板温度が室温付近でも10K付近でも観測することができた。また、重水素原子照射を基板温度10K付近で行ったが、水素原子と重水素原子で大きな違いが見られなかった。これは水素付加反応の反応障壁の小さいことを反映していることが示唆されるが、それを明確にすることが実験手順の効率化も含めて今後の課題として残った。
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