研究領域 | 超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
26108701
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
有賀 寛子 北海道大学, 触媒化学研究センター, 助教 (90570911)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミュオン / TiO2 / 光触媒 / 単結晶 / 酸素欠陥 |
研究実績の概要 |
本研究では、光触媒であるTiO2内部の欠陥構造(酸素欠陥や水素)と光触媒作用との相関を超低速ミュオンにより明らかにすることが目的である。光触媒反応特性を決定する上で重要な要因として、band gap付近の電子状態があげられる。つまり、光触媒反応過程は次に示す3ステップからなっており、この全ての過程を支配しているのがband gap付近の電子状態と言える。1つ目のステップは光吸収による励起電子と正孔の生成、2ステップ目は励起電子と正孔の表面への拡散、3ステップ目は励起電子と正孔を介した表面での化学反応である。これらの過程は、bulk, subsurfaceとsurfaceと電子状態の異なる領域で起こっているため、光触媒反応を理解するには、深さ方向に分解を有し、band gap付近に準位を持つと考えられている酸素欠陥や水素などの欠陥構造を観測可能で、また、電子状態を明らかにすることができる手法が必要となる。我々は、これらのことが可能であるのが、現在、建設中の超低速ミュオンであると考え、研究を進めている。平成26年度の課題は、既に利用可能なミュオン装置(超低速ではない)を用いて、そもそも、ミュオンはTiO2の欠陥構造を観測できるのかを明らかとすることであった。我々が着手するまでミュオンとTiO2の欠陥構造の相関を観測や解析した例はなかった。我々は、欠陥の導入されたTiO2に外部磁場(縦磁場、横磁場)を印加し、ミュオンスピン回転 (μSR)を観測した。また、ゼロ磁場内でのミュオンスピン緩和も観測した。平成26年度の結果、酸素欠陥を導入することでゼロ磁場内のスペクトルに最も顕著な変化がみられることがわかった。また、Kubo-Toyabe関数でfittingすることで、ミュオンは酸素欠陥近傍にある不対電子と磁気双極子相互作用すること、また、ミュオンの存在位置を明らかとした。これにより、平成27年度予定している超低速ミュオン測定の基盤が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の結果、rutile型TiO2の酸素欠陥をゼロ磁場μSRスペクトルで観測できることがわかり、また、Kubo-Toyabe関数を用いて、これらのスペクトルを解析することが有効であることを示した。これは、計画通りの進捗であり、平成27年度予定している超低速ミュオン測定の基盤が整ったものと考えられる。さらに、この結果は、従来、密度汎関数法(DFT)を用いた理論計算により、予測されていた位置より、Tiの近くにHが安定に存在し得ることを示唆している。これは、ミュオンが水素の同位体であるという性質を利用して、明らかとしたものである。現在、DFT計算を専門とするグループと共同で、安定位置、安定化の原理にアプローチしている。このように、平成26年度は、計画通りの進展があったばかりでなく、理論計算で予測されていたのと違う現象を観測し、新しい化学の可能性を見出したため、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、rutile型TiO2の酸素欠陥を、深さ分解能を有する超低速ミュオンを用いて観測する。また、ギ酸や酢酸などプローブ分子の存在下で、光照射によるミュオンスペクトル変化を観測し、光触媒反応動作中の電子状態変化を明らかとする。ここでプローブ分子としてギ酸や酢酸を用いるのは、これらの分子は本研究で用いているrutile型TiO2(110)表面上での吸着状態が明らかとなっているためである。解析には、平成26年度、蓄積した解析ノウハウを用いる。具体的には、Kubo-Toyabe関数を用いてfittingすることが有効であることがわかっている。 これらの結果から、目的としていた光触媒反応作用と欠陥の相関を明らかにすることができると考えられる。酸素欠陥や、紛体TiO2中に混入してしまう水素が光触媒TiO2の性質を大きく変えていることは広く知られているが、その系統だった情報は不十分であったが、本研究により系統だった解析が可能な手法論が見出されると考えられる。
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