光触媒であるTiO2内の欠陥は,光吸収や電子伝達に重要な役割を果たす。この欠陥には水素が安定化するということが理論計算で予測されているため、本研究では、muonをプローブとしてTiO2の欠陥を観測できないかと考えた。muonは水素と同じ電荷を有する量子であるため,物質中で水素の軽い同位体として振る舞う。また,平均2.2 μsで崩壊するため,崩壊の時に放出される陽電子を観測することで,物質内でのmuon (つまり水素)の分布や電子状態を明らかとすることができる。 本研究では、rutile型TiO2に酸素欠陥を導入しmuon spin rotation/relaxation法を用いて観測し、得られたスペクトルを詳細に解析することで、ruitle型TiO2内部の欠陥として、酸素欠陥に二つの水素が存在する新しい安定構造を見出した(測定では水素とミュオンの安定構造を観測した)。また、この構造について密度汎関数法によりエネルギー的安定性と電子状態を計算したところ、本構造は準安定構造の一つで、また、band gap内部にエネルギー状態を持つことが明らかとなった。これは、本構造がrutile型TiO2の光触媒特性に寄与していることを示唆する。 以上のように、本研究では、光触媒特性の予測に、muonをプローブとして用いることが有効であることを示した。更に、金属酸化物内部の新しい水素種の存在を示唆した。本結果は、muon spin rotation/relaxation法が、今後、より複雑な構造を有する高機能、多機能な光触媒に応用可能で、予測が困難な光触媒特性を発現している原子レベルの構造、電子状態分布を明らかとするツールとなることを示している。
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