超低速ミュオン顕微鏡において,超低速ミュオンビームは最大30keVのエネルギーと1~2nsの時間幅の初期状態から再加速がおこなわれる。これまで検討されてきたRFQ線形加速器による再加速の特長として,後段の線形加速器が必要とするビーム時間構造にあわせて,直流入射ビームをバンチング(集群化)しながら加速できることがあげられるが,そのためのバンチングセクションを内部に有するので加速効率が低く,ある程度の長さが必要とされる。しかし,超低速ミュオン顕微鏡のように,あらかじめパルス化されたビームが入射するのであれば,シングルギャップ型の高周波加速器を利用するほうが,加速器を小型化でき,ビーム通過時間も短縮できる可能性がある。 平成27年度は,研究実施計画に基づき,前年度製作したシングルギャップ型高周波加速空洞について電力効率向上のための表面処理をおこない完成させた。また,その加速空洞と高周波電源をJ-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)に持ち込んで運転するために必要な,安全管理に関する所定の手続きをおこなった。なお,平成27年の4月と11月に発生した中性子標的容器の不具合によりMLFへの陽子ビーム供給が長期間停止したため,超低速ミュオンビームライン(Uライン)における超低速ミュオンの初発生が平成28年2月末になり,その後もビームコミッショニングが続けられていることから,本研究では再加速試験の準備を進めた。これらと並行して,超低速ミュオンを10~30MeVまで加速する,新しいミュオン加速器に関しても検討をおこなった。
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