研究領域 | 超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
26108708
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
斎藤 峯雄 金沢大学, 数物科学系, 教授 (60377398)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 窒化ガリウム / 水素不純物 / ミュオニウム |
研究実績の概要 |
本研究では、ミュオン実験が物質中の水素不純物の研究に応用されていることを鑑み、水素及びミュオンの第一原理計算を実行する。GaN中の水素不純物はp型半導体の達成を阻むものとして認識されている。いっぽう、ミュオン実験から、GaN中で、中性のミュオニウムは、浅いドナー準位を生成することが報告されており、水素が浅いドナー準位を持つ可能性がある。はじめに、各電荷状態における水素不純物の安定構造を決定した。決定した安定構造においては、全ての電荷状態に対して、3回回転対称性が存在する事が分かった。水素とミュオニウムが同じ安定構造を持っているとすると、上記のシミュレーション結果は、ミュオン実験と矛盾しない。今後、この結果をもとに、超微細構造の計算を行い、ミュオン実験の結果と比較する予定である。 GaNにおいては、ミュオンや水素における,量子効果を明らかにする必要がある。そこで、経路積分第一原理計算プログラムの整備を行い、シミュレーションをする準備が整っている。今後、GaN系に対して、本シミュレーションを実行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、水素不純物の安定構造を決定した。これまで、ミュオン実験における超微細構造に関して理論的な研究はほとんど行われていない。本研究では、+1、0,-1の各電荷状態に対して3回回転対称性の存在することを明らかにし、ミュオン実験において観測された超微細構造と矛盾しない事をつきとめた。今回計算によって求めた原子構造をもとにして、今後超微細構造の計算を行うことが可能であり、さらに詳しい研究を行う予定である。 これまで、水素とミュオニウムが物質中で同じ振る舞いをするのか、あるいはプロトンとミュオンの質量の違いにより、違う振る舞いをするのかについては、十分な知見が得られていなかった。これを明らかにするためには原子核の量子効果を考慮した第一原理計算を行う事が必要である。このような計算を行う研究は先端的であり、大規模数値シミュレーションを実行する必要がある。本研究では、これまでに開発したプログラムを大規模並列計算ができるように変更した。今後、このプログラムを用いて、GaN中の水素ならびにミュオンのシミュレーションを行うことが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、GaN中の水素不純物の原子構造は、ミュオン実験の結果と矛盾しないことが示されている。今後中性の電荷状態を中心として、超微細構造を計算し、実験結果を再現できるかどうかを検証する。とくに、実験では特異な異方性が検出されており、これが再現できるかどうかを調べる。これまでに、超微細構造の第一原理の例は少なく、GaN中のミュオニウムの超微細構造の計算は、ほとんど行われていない。本研究により、ミュオニウムにおける超微細構造に関する理解が進むものと期待される。 また、本研究では、大規模なシミュレーションが可能な第一原理経路積分法プログラムを開発している。現在、ミュオンの研究分野では、原子核の量子効果を考慮した第一原理計算の必要性が認識されており、本プログラムを用いたシミュレーションは、その様な要請にこたえるものである。今後、GaNにおける、水素やミュオニウムの量子効果を調べるシミュレーションを実行する。
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