平成28年度は、前年度までの研究で十分でないところを補完するために研究を行った。GaN中で中性のミュオニウムが検出され、超微細構造に強い異方性が現れることが報告されていたが、その原因は未解明であった。これまでに、第一原理計算を実行してミュオンの安定位置をを決めており、平成27年度は超微細構造の予備的計算を擬ポテンシャル・平面波法を用いて行った。平成28年度は、擬ポテンシャル・平面波法の計算だけではなく、全電子計算も実行して超微細構造を評価した。とくに、後者の手法は、原子核近傍における電子の波動関数を精密に計算できるため、超微細構造の高信頼性計算に適している。擬ポテンシャル・平面波法と全電子計算の結果を比較することにより、計算の信頼性について議論を行い、計算の妥当性を明らかにした。計算の結果、等方的に超微細構造に影響を与えるフェルミのコンタクト項に関してはSiやGaAsの場合と比べて、値が小さいことが分かった。いっぽう、双極子・双極子相互作用項の計算の結果得られた異方性は、実験結果のものと矛盾しないことを確かめた。このことにより、第一原理計算により、実験結果を再現できる事を明らかにした。3年間の研究により、これまでにその原因が不明であったGaN中ミュニウムにおける超微細構造の異方性の原因を解明した。そこで得られらた知見は、今後の実験研究の進展に有益な情報をもたらすものと考える。また、全電子法に基づく第一原理計算が、今後様々な系における超微細構造の解析において有用であることを示した。
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