研究領域 | 超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
26108709
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹中 康司 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60283454)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 磁性 / 複合材料 / 界面 / 負熱膨張 / フラストレーション |
研究実績の概要 |
負熱膨張性マンガン窒化物を熱膨張抑制剤フィラーとして含む金属複合材料において、マンガン窒化物の粒径により、熱膨張や熱伝導度といった物理特性がどのように変化するかを調べた。その結果、粒径の大きなフィラーを用いることで、熱膨張がより抑制され、また、熱伝導度も向上することが明らかになった。この成果は、マンガン窒化物の添加量を抑え、よりマトリックス金属の特性を活かした低熱膨張金属複合材料の作製を可能とする意味で、高い工業的価値を有する。 この金属複合材料のSEM-EDX評価により、複合化の熱処理に際してマンガン窒化物は界面から深さ10μm程度、マトリックスである銅と化学反応していることが示唆された。今後は、界面に何ができているか、また、化学組成では変化がないように見える粒内部の特性はどうなっているかといった情報を、ミュオン顕微鏡などを用いて評価する。 今年度はまた、フラストレート系金属磁性体であるマンガン窒化物Mn3GaNにおいて、巨大な圧力熱量効果を発見した。磁気転移温度の圧力依存性や、エントロピー変化量、体積変化量などの定量評価から、この圧力熱量効果は、常磁性相の短距離磁気相関がフラストレーションにより抑制されることが原因であると考えられる。磁気転移に際して大きな熱量変化をともなっていても、反強磁性であるがゆえに外部磁場ではそれを取り出せなかったが、圧力を用いることで取り出せることが示された。これまでは考慮されてこなかった反強磁性体にまで固体冷凍材料の探索の場を拡げた点で画期的成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
負熱膨張性マンガン窒化物を含む低熱膨張金属複合材料において、熱膨張抑制剤の粒径と複合材料の物理特性の間に相関があることを見出し、複合材料の高機能化・低コスト化の道筋をつけることができた。また、物理特性とマンガン窒化物/金属界面の相関を示唆する結果を得、今後ミュオン顕微鏡を用いた研究において、どんな点に着目して研究を進めるべきかの論点を明確にできた。 さらに、当該負熱膨張性マンガン窒化物に代表されるフラストレート系金属磁性体では、フラストレーションにより磁気体積熱量効果が増強される可能性を見出し、その巨大な熱量変化を圧力により取り出すことに成功した。この成果は、フラストレート系金属磁性体の持つ豊かな可能性を示すもので、基礎的な磁性物理だけでなく工業的な機能材料の分野においても大きなインパクトを与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究により、マンガン窒化物/銅の複合材料において、どのくらいの長さスケールで、複合化の際にマンガン窒化物と銅の化学反応が進行するのかの情報を得た。次に問題となるのは、①その結果、界面に何ができたのか、②複合化の熱処理を変えることで、界面の状態がどのように変わるか、③熱膨張や熱伝導といった物理特性を向上させるためには、界面をどのようにすればよいか、そして④そのためには複合化の処理条件をどのように調整すればよいか、である。このためにはミュオン顕微鏡による局所磁性の評価とSEM-EDXやEPMAなどによる元素比のマッピングを組み合わせた評価が必要である。 マンガン窒化物の磁性は、組成の違いや、不純物、圧力・歪などによりめまぐるしく変わり、それにともない体積を変える。ミュオン顕微鏡による評価に関しては、理想的な反強磁性・負熱膨張状態をはじめとして、様々な磁性状態にあるバルク試料のマンガン窒化物の評価から始めて、次に複合材料中でどのようになっているかを明らかにしてゆく。本研究で行う一連の測定は、フラストレーションが顕著な磁気物性を発現させている典型物質の磁気相関メカニズムを明らかにする側面も有する。
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