研究領域 | シンクロ型LPSO構造の材料科学 ―次世代軽量構造材料への革新的展開― |
研究課題/領域番号 |
26109704
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小泉 雄一郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10322174)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 疲労 / 破壊 / 亀裂 / 力学特性 / キンク / マグネシウム / 転位 / 長周期積層構造 |
研究実績の概要 |
共通試料のMg85Zn6Y9一方向凝固合金より、荷重軸が凝固方向と平行な疲労試験片を放電加工により切り出し、機械研磨と化学研磨で鏡面状の表面を得た。変形前の表面組織を光学顕微鏡おより走査電子顕微鏡後方散乱電子回折で解析した後に、万能型材料試験機を用いて圧縮―引張繰り返し変形を行った。尚、初期変形でキンクが導入を期待して、繰り返し変形は圧縮から始めた。繰り返し変形後の表面起伏および亀裂を、レーザー顕微鏡で観察・測定した。1サイクル目に1.3%の塑性ひずみが導入された。繰り返し変形回数の増加に伴い、圧縮側の変形応力には変化はなく、引張荷重が低下した。底面すべり線と思われる荷重軸に平行な筋が多数見られ、その一部に沿い笹の葉状の暗い亀裂(縦割れ)が確認された。縦割れの多くはその内部にキンク変形で生じたと考えらえる大きな突き出しを有した。これら組織は、繰り返し変形による特有のものであり、上記の特異な繰り返し変形挙動と密接に関わる可能性がある。表面起伏の高さは最大25μm以上もあり、他の合金の疲労変形で形性される一般的な突き出しの高さより一桁以上大きいことが明らかとなった。大きな表面起伏を形成したリッジ状キンクの中心近傍に沿って荷重軸に垂直な亀裂が観察された。最終破断はこのような亀裂の伝播と連結によって生じると考えられる。リッジ中心から離れた部分での亀裂形成は、亀裂の形成がキンク変形による結晶回転で底面すべりが容易と成った部分での繰り返し転位すべりによってこれらの亀裂が形成されたことを示唆している。 断面TEM像では、キンクの中心には計算モデルでも示されている様に高角粒界が形性されていた。底面をedge onにして11-20反射を励起して観察したところ、リッジ状キンク内部には高密度の転位が存在した。しかしながら、粒界近傍で特に高密度にはなっておらず、転位の堆積は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPSP相の疲労機構解明を目指して、18R型LPSO構造を有すMg85Zn6Y9DS合金の繰り返し変形挙動について調べた。圧縮荷重によりキンク帯を形成してから繰り返し変形することで、引張荷重での塑性ひずみが得られ難いことが知られる同合金において引張時にも塑性ひずみを生じる繰り返し変形を行うことができた。繰り返し変形に伴い、引張における荷重が低下する特異な応力ひずみ挙動の変化が見られるとともに、破壊後には、キンク帯の他、底面すべりに沿った特徴的な組織が観察された。多くの荷重軸に平行な縦割れと、キンク密集する場所では、キンクに平行(荷重軸に垂直)な亀裂が形成され、破壊に至った。当初予定していた荷重軸を代えての実験が未了ではあるものの、キンク中での亀裂の形成や、縦割れ、引張圧縮非対称性など本合金特有の疲労挙動を見いだすことができ、次年度の研究の方針も明確となったことから、概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
繰り返し変形中の試料のひずみ量については、材料試験機クロスヘッドの変位量から治具の弾性変形も含む弾性変位量を差し引いて求めた塑性ひずみを評価した。この他に、ひずみゲージ、ビデオ式伸び計、クリップゲージ、による評価も試みた。しかしながら一方向凝固材のサイズに合わせた試料サイズのためビデオ式伸び計での分解能が十分でなく、またキンク変形による大きな表面起伏でのひずみゲージの剥離、クリップゲージエッジよる表面損傷等のため安定した測定が困難であった。現在、レーザー変位計を用いた非接触ひずみ測定を試行し、安定した高精度な試験が可能となった。今後はこの手法を用いて、上記の内部組織形成機構やLPSO構造の変化に注目し、低ひずみ振幅でより大きなサイクル数までの繰り返し変形や、底面すべりが容易な荷重軸での繰り返し変形を行い、LPSO構造特有の疲労機構を明らかにする。
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