研究領域 | シンクロ型LPSO構造の材料科学 ―次世代軽量構造材料への革新的展開― |
研究課題/領域番号 |
26109705
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
椎原 良典 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (90466855)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 局所応力 / 局所エネルギー / 局所弾性定数 / 積層欠陥エネルギー分布 |
研究実績の概要 |
シンクロ型LPSO構造を持つMg合金の卓越した機械的特性は,介在原子の濃化層とhcp結晶積層欠陥であるfcc層が同調した長周期構造に由来する.この構造を濃化層とMg層からなるヘテロ構造としてとらえた場合,これら2つのサブ構造がそれぞれ異なる弾性的性質や応力状態を持つことは十分考えられ,その差異は種々のLPSO構造合金の機械的特性や安定性,形成メカニズムを議論する上で有用な情報となり得る.今年度は,MgZnY合金の10H構造に局所解析を適用し,その内部応力分布と局所体積弾性率,および局所弾性定数を評価した.Mg層の局所体積弾性率は,Mg hcp結晶のそれとほぼ一致した.また,濃化層の局所体積弾性率はMg層のそれよりも約7GPa大きい.この差は先行研究における実験による推定値(18Rでの値)の1.2から1.5倍程度であり,両者の結果は定性的によく一致した.局所弾性定数について最大10GPa程度の差異が見られたものの,定性的な傾向はよく一致した.すなわち,濃化層の剛性がLPSO構造を持つMg合金の高い剛性に寄与するとする結果が第一原理局所解析により得られた. また,シンクロ型LPSO合金の重要な構成要素である積層欠陥について局所エネルギー解析を行った.その結果から,積層欠陥間の相互作用はきわめて少ないことと,種々の多形における積層欠陥エネルギーはI2積層欠陥エネルギーの重ねあわせにより評価できることを明らかとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の当初の研究計画においては,介在原子間および介在原子-積層欠陥間相互作用を主眼としていたが,現在の領域全体における研究実施状況を鑑み,濃化層クラスターを中心とした解析を行った.シンクロ型LPSO構造Mg合金の第一原理計算およびその局所解析を実験と比較可能な精度で実現できたことから,達成度としては十分としている.
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今後の研究の推進方策 |
前年度においては,シンクロ型LPSO構造Mg合金(10H構造)の局所弾性定数評価を行い,妥当な結果を得た.今年度はこの成果を更に敷衍し,14H,18Rにおける局所弾性定数評価を行う.局所弾性定数という観点から見れば,Mg層と濃化層の相互作用は小さく,ほぼ独立した層として扱うことができると期待される.10H,14H,18RはMg層と濃化層の体積分率がそれぞれ異なることから,これら多形における構造全体の剛性の差異はその体積分率の差異により説明できると考えられる.局所弾性定数を用いて複合則から構造全体の剛性を評価することにより,この仮説を第一原理計算により明らかとする.また,濃化層クラスターのケージ内部の中間原子が与える濃化層弾性定数への影響は興味深い.同様の方法論を用いて,その影響を第一原理計算により定量的に明らかとする シンクロ型LPSO構造Mg合金の安定化および形成メカニズムを議論する上で,濃化層クラスターから生じるひずみ分布は重要と考えられる.孤立したクラスター,および,孤立した濃化層近傍における応力分布を大規模第一原理計算から評価し,クラスター間・濃化層間の力学的相互作用を明らかにすることを目指す.
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