研究実績の概要 |
Mg 基 3 元系合金 LPSO 相の熱力学的安定性を第一原理計算に基づいて明らかにする.その際, 合金の原子配置や組成,積層の自由度を定量的に考慮した上で原子スケールの微視的な観点から の考察を行った.従来研究では LPSO 相の安定性に対する電子系のエネルギーの寄与のみが考慮さ れていたが,本研究では格子系のエネルギーの寄与についても第一原理から定量的に評価した.その結果は以下の通りである. まず不規則相とLPSO相の形成自由エネルギーを定量的に評価した,その結果,LPSO相は不規則相に対して熱力学的に安定であり,同じ積層構造の下では規則不規則相転移温度が900K程度になることを確認した.次に,熱力学的安定性に対する格子系の寄与の影響を,弾性定数に基づいて吟味した.その結果,同じ組成において不規則相とLPSO相の体積弾性率に有意な差はなく,格子系のエネルギーは熱力学的安定性に対して定性的には無視できることを明らかにした.さらに,積層欠陥が熱力学的安定性に及ぼす影響を,不規則相の形成エネルギーに基づいて吟味した結果,fccとhcp積層の平均よりも積層欠陥を導入した方が不規則相は熱力学的に安定であり,したがってMg-Y-Zn合金においてはL12クラスターを形成していなくても相分離した場合には積層欠陥を複数導入する方が安定であることを明らかにした.最後に,L12クラスター形成について不規則相の原子配置の短範囲の規則化の観点から検証した.その結果,不規則相は完全に不規則な原子配置と比較して特に Mg-Mg, Y-Zn,Zn-Zn 最近接ペアを好む傾向にあり,これは L12 クラスターを有する LPSO 構造の傾向と定性的 に一致することを確認した.以上のことから,LPSO相の熱力学的安定性は,競合する不規則相の熱力学的安定性や構造と密接に関連していることを明らかにした.
|